やっぱり解決しない人種問題

彼女は犠牲になったのだ - maukitiの日記の続き的なお話。
講演の内容を切り貼りされて槍玉に挙げられ、結局身内からも見捨てられた彼女、だけど実はやっぱり無実でした。というオチではあるんだけども、そんな感情の裏にある黒人差別の歴史と、それと同時にある白人たちの加害者意識の行く末。


オバマ時代になってかえって難しくなった人種問題 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
これは面白い見方。

 問題は、オバマ大統領が登場したことによって、白人と黒人が「ある意味で本当に平等に」なってしまったことにある、妙な言い方ですが、私はそう見ています。数年前までは、例えばオバマ大統領が若いときに交際していた「ラジカルな」黒人牧師のジェレミア・ライト師のように「白人=加害者」として「黒人=被害者」が糾弾するという構図はある種「許される」ことが多かったのです。ですが、オバマが大統領に上り詰める過程で、いみじくも「ライト師との過去」を切り捨てたように、こうした姿勢は許されなくなって来ているのです。

 今では、白人のことを「単に肌の色だけを理由にして」奴隷所有者の子孫だと糾弾したり、不利に扱ったりすることは「レイシスト(人種差別主義)」という非難を浴びることになりました。そこには、オバマが大統領になって差別が消えたという漠然とした感覚を背景にして、「生まれながらにして白人=差別者の汚名を着せられるのは理不尽」という保守系白人の被害感情を核に持った「ティーパーティー」の存在感など、様々な要素が入り組んでいるように思います。

オバマ時代になってかえって難しくなった人種問題 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

まぁ確かにそういう面はあるのかなぁと思います。単純な、白人の差別者像と黒人の被差別者像、という構図が崩れてきていると。
実際オバマ大統領就任前からも言われてきた事ではあったんですよね。「最早アメリカに人種主義の問題は無くなりつつある」的な話。もちろん、今でもそうした差別感情は厳然として存在するものの、しかし同時にそんなものは完全に根絶される事など絶対にない。その上で「(現実的に見れば)人種主義の観点から是正されるべき問題はほぼ無くなったのではないか。今尚存在する黒人の貧困問題や医療問題等は、そうした観点ではなく、政治的に解決すべき教育問題や(まさにオバマ大統領が推進する)医療保険の改革によって成されるべきではないか」と。


つまりオバマ大統領の就任はそうした曖昧な状況にトドメを指した。
一部の人の意識化に暗黙の了解としてあった「最早平等である」という感情は、より強い形で、あるいは「黒人の大統領が居る」という大義名分を得た事でより大きな声として、用いられるようになってしまった。そしてまぁそうした感情がぶつかれば、当然の結果として摩擦が生まれてしまう。それが今の状況であると。

それは無能の証明ではなく一般性の証明である。

さて置き、引き金を引いたオバマ大統領自身はそうした状況を解決できるのかと言うと、うん、まぁ、無理ですよね。

オバマ大統領には苦い経験がある。2009年7月にハーバード大学ゲイツ教授が、自宅の玄関の鍵が壊れていたのでこじ開けて入ろうとしたところを、空き巣と間違えられて逮捕された事件があった。ゲーツ教授は黒人である。この誤認逮捕には、警官による人種差別があったのではないかと大騒ぎになった。
 事実関係がはっきりしない段階で、オバマ大統領が警察の行動を「愚行」とし、「人種差別があったことは間違いない」とコメントした。これによって全米に人種間の対立感情が沸き上がったのだ。

「白人迎合」と糾弾されるオバマ大統領の苦悩 「ポスト・レイス」時代到来で人種差別はなくなるのか(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

皆もう忘れているかもしれませんが、そんな事件もありましたよね。
こうした出来事から、結局の所オバマ大統領はどうやれば正解だったのか? と言われると確かに答えはすぐに見つからない。実際何をどうした所で、白人の側に立てば黒人の人々から「白人迎合」と怒られ、黒人の側に立てば白人の人々から「黒人迎合」と詰られてしまう状況は容易に想像できる。そしてまぁだからこそ、オバマ大統領とその周辺の人々は「人種問題には触れない」という、たったひとつの冴えたやりかたを選んできた。


ということで、就任の時に楽観的な人々が夢見た「オバマ大統領ならば人種問題は解決する」というような事は全くなかったわけで。だけどそれは別にオバマ大統領の無能を示す理由にはならない。それまでのアメリカの大統領に出来なかった事が、当然、オバマ大統領にもできなかった、というだけなんだから。