真に恐ろしいのは「這い進む常態」と「風景健忘症」だったのに

  • 「這い進む常態」
    • 様々な雑音が多い変動の中に隠された、ゆるやかな傾向。
  • 風景健忘症
    • ある問題がただゆるやかに悪化していくと、本来あった正常である事の判断基準をも同じように変化していく。結果として段々悪化していく問題に気付かない状況。

共にジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』から。彼はこれをかつてあった環境問題における破滅的決断の原因として挙げている。

善意が招いた悲劇

ということでクライメート事件によって致命的な打撃を受けた地球温暖化問題。彼らは結果的に危機を煽って失敗し、それはよりひどい結末を招いた、なお話。


気候科学の不確かな真実 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 悪いのは不況による経済への不安感なのか、ことのほか寒かった今年の冬なのか、それとも失態続きの国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)なのか──。地球温暖化を懸念する世界の世論が急速にしぼんでいる。
 エコ先進国のはずのドイツでも、温暖化について懸念しているのは全体の42%にすぎない(06年には62%)。イギリスでは温暖化の原因は人間の活動だと考える人は26%にとどまっている(09年11月には41%)。1月に米ピュー・リサーチセンターが行った世論調査では、21の政策課題のうち温暖化は優先度で最下位にランクされた。

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そういえば結局アメリカもオバマさんのキャップ&トレード法案もついにトドメを刺されそうな感じですね。そしてオーストラリアも同様に死亡済みであると。革新的な政策を掲げたはずの彼らは、まぁ一部の人に言わせると「当然の如く」無かった事にされた。さてさて日本のアレはどうなるんでしょうね。


ということで上記スキャンダルやCOP15などの失敗によって、世界の主流意見として「温暖化問題は直近の問題ではない」との認識が固定されてしまった。そしてそれはまぁ概ね事実ではある。
しかし、そしてそこに至った主要因の一つは確実に、環境保護論者たちの誠実ではない態度が招いた。
彼らはその惜しみない善意と熱意によって地球温暖化問題をどうにかしようと、それを煽り結果的には詐欺のような手段をも用いた。地球に迫る危機なのだから「目的は手段を正当化する」といわんばかりに。だがその後に嘘が暴露された時に起こったのは、それまでの熱狂の揺り戻しにも近い「まだ重要な問題ではない」的な冷淡な認識に変化してしまった。
つまり結果論や後知恵からすれば、彼らは(善意とはいえ)本当にロクでもないことをしてしまった、と言える。


このまま放置すれば大変なことになる、という危機感から始まった彼らの地球温暖化への取り組み自体は非難されるものでは勿論ない。しかし結果的に彼らは誤った手法を用いてそれに失敗しただけではなくて、むしろ何もしなかったよりもひどい、問題の矮小化することの大義名分をも与えることになってしまった。
彼らの言っていたことは嘘だったのだから、今後はそこまで重視することもないだろう、と。
最初に恐れていたのはそんな無定見が招くジャレド・ダイアモンドの言う「這い進む常態」と「風景健忘症」だったはずなのに。このまま放置すればいつか大変なことになりますよ、と教えたかっただけのはずなのに。しかし結果的に彼らが招いたのはそうした傾向にむしろ拍車を掛けてしまった。


無定見が招く悲劇を回避するはずが、無定見による善意によってその悲劇を招いてしまった。
むしろそれは悲劇というよりも喜劇ですよね。