ナイ教授のいつもの「反・米国衰退論」

おなじみナイ教授のいつものありがたいお話について。


Opinion & Reviews - Wall Street Journal

 米国は今後数十年、どの国よりも強国であり続ける可能性が高い。同時にわれわれは今後、確実に国家か非国家主体の別を問わず、新たなパワーの台頭に直面するだろう。また増加する問題にも直面する。それらの問題解決には他者との協力が必要であったり、他者に対する強制が必要になることもあるだろう。だからこそ、わが国が同盟関係を維持しネットワークを構築する能力は、ハード、ソフト両面のパワーにとって重要な側面になる。

 実現しつつある予言に屈せず、わが国は国内改革と、情報化時代にパワーを海外展開させるための賢明な戦略とを結びつけるビジョンが必要である。

Opinion & Reviews - Wall Street Journal

と言いつつも、ナイ教授の「反・アメリカ衰退論」ってこの方もうずっと仰ってますよね。ぶっちゃけ僕のようなにわかナイ教授ファンでさえ覚えてる位だから多分もうすごい何度も繰り返し同じ事言っていると思うんです。まぁそれだけそんな「アメリカ衰退論」が世間でよく言われているということの証左でもあるんでしょうけど。
一体いつから言ってるんだろうと、ふと家にあるナイ教授の著作から適当に漁ってみたら2002年の著作『アメリカへの警告』からすでに似たようなことを言ってました。すごい。この人もう10年も同じこと言ってます。


さて置き、実際そんな10年前と較べて、ナイ教授自身も言及しているように、確かに「相対的」にはアメリカは衰退してると言えるんでしょう。
といっても主にそれは対中国位の話でしかないとも言えるんですよね。あとはせいぜいBRICsのような新興国組と較べれば、それさえもこの10年で驚くほど差が縮まったかと言うと微妙です。むしろアメリカのかつてのライバルだったロシアや日本やEUはアメリカ以上の勢いで沈んでるとも言えるわけで。冷戦当時のソ連や、EUのユーロ導入当時の熱狂や、日本のバブル時代の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』なんてもうどれも影も形もありませんよ。
だから「相対的にアメリカが衰退している」というのもあまり正確ではないと思うんです。より正確に言うならば国際関係における「対中国とのバランスにおいてアメリカは衰退している」というべきなんじゃないかと。冷戦時代に引き続き我らが日本としては結構辛いポジションで悲しいお話ですけども。

英国の戦略研究家ローレンス・フリードマン氏は、歴史的に米国が過去の大国と相違している2つの特徴を挙げている。米国の国力は植民地よりも同盟国との関係に基づいていること。また、拡大し過ぎた後でさえも戻ることができるという、柔軟なイデオロギーを伴っている点だ。

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まぁそれも概ね仰る通りなんでしょう。少なくとも日本はその通りに、一部の人は全力で否定するだろうけども、アメリカとの同盟を私たちのほうからも強く望んでいるわけでもあるんだから。だってそっちの方がどう見ても経済的にも政治的も合理性があるんだから。
最近もうちの国で「あれは方便だった」*1なんて言った人が居ますけども、結局の所、あの発言で重要だったのは彼個人の意思(思想)ではなくて、少なくとも政権中枢に居た彼以外の多くの人はごく当たり前に同盟関係を維持する事を必要だと感じていたことの証明でもあったわけで。それも当たり前の話ではありますよね。どっかの独裁政権じゃあるまいし、指導者の個人の好き嫌いで判断されてもすごい困ります。
だからあの「方便だった」の発言が意味する所はつまり「自分はそうは思わないけど周囲が五月蝿いので仕方なく言った」という意味でしかない。鳩山さん以外の多くの人はその必要性を認めていたと。正しい議会政治のあり方で大変嬉しいです。


ということで私個人の意見としても、贔屓目に見ても「おバカなアメリカ」という評価は確かに完全に否定できないけども、しかしそれ以上に(私たち日本がそうであるように)相手側にも利益をもたらす相互利益的な同盟関係をアメリカが多様に維持している限りは、まだしばらくはアメリカの衰退はやって来ないんじゃないかと思います。みなさんはいかがお考えでしょうか?