『神話』が崩壊するということ

それはただ「消えて無くなる」というだけ済まないんですよね、なお話。
(ちなみに以下この日記では『神話』という言葉を、「共同体の構成員が重要な共通認識としてコミットしているもの」という定義で書いております。*1



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/12475

 EU域内の各国民の関係は、ユーロ危機の重圧の下で崩れ始めている。アテネでは、デモの参加者たちがナチスかぎ十字が付いたEU旗を振っている。ドイツでは、ユーロ危機のために、浪費家で腐敗した南欧諸国の人々を糾弾することが容認されるようになった。ヨーロッパ人を団結させるはずだった単一通貨は、逆に彼らを引き裂いているのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/12475

ユーロさんちの苦労話。まぁ他人事としてならば、生暖かい目で見守ることができるというものです。


ともあれ、それまで『欧州連合』というものの統合・成立の象徴であった統一通貨ユーロは、その象徴としての自明性を失ってしまったわけであります。かつてはそれを示すだけで欧州連合の「統一性」を提示できていたのに、しかし現在ではそれを示すだけで逆の「非統一性」を提示できるようになってしまった。
その共同体成立と共にあった『神話』が崩壊すると、同時にそれは分裂することへの強い誘引となってしまう。悲しいお話です。
でもまぁこれってよくあるお話ではあるんです。
つまり、それまで権威や統合を象徴していたものがある出来事を境にして、全く逆の意味が付与されてしまう。それは当初あった権威や統合機能が強ければ強いほど、しかしその自明性や真理性が失われたとき、より一層の反発と流動性を招くことになるわけです。彼らの嘆きの深さは、しかし同時にかつてあった期待の大きさの裏返しでもあると。
こんなことは、革命的手段による君主制の崩壊や、かつてのソ連や東欧圏での共産党建国神話の崩壊、またはナチスとドイツ、あるいは私たち日本の戦後でも起きたことでもあるし、そして最近でも『原発』の神話が裏返ったばかりでありますよね。


私たちはその『神話』を信じていなかったからではなくて、むしろ強く信じていたからこそ、反動としてその『神話』が失われた時にはより大きな反発心が目覚めてしまう。
それは「裏切られた」「騙された」と思ってしまうからこそ。

*1:ミルチャ・エリアーデの定義である、(宗教学的に言えば)神話とは「人間の思考全体を基礎付け、それ自体は疑われない前提とは一種の『神話』となる傾向を持つ」ものである。あるいは「究極的事実」「一切の思考の前提」