ヨーロッパ版「it's a economy stupid」

二重の意味で勝ち目のないギリシャ


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42582
この論には概ね同意するしかないお話ですよね。ユーロ危機の最大のリスクは、各国ローカルな『民意』である、と。

ギリシャの情勢が今まさに物語っているように、この見方は甘かった。この見方の最も弱い環は、欧州の政治だった。具体的に言うなら、有権者が経済の緊縮政策に反発し、ユーロを維持する方法についての欧州の合意を拒絶する「反システム」政党に1票を投じるリスクもそうだった。

 もしこの合意が崩れれば、債務、救済、そして緊縮政策から成るデリケートな、それこそトランプの家のように脆い構造全体がぐらつき始める。ギリシャで今起こっているのはそういうことだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42582

でもまぁこの問題は別に今のギリシャから始まったわけでは絶対になくて、むしろ「欧州連合の歴史」そのものでもあるわけで。戦後から始まった欧州統合の歩みは常にこうした「反EU」の声と戦ってきた。それは市場統合でもそうだったし、憲法条約批准でもそうだったし、中東欧拡大でもそうだったし、ユーロ通貨導入時もそうだったように、やっぱり現在のユーロ危機でもそうだった。
――さて、じゃあこれまで彼らはどうやって反対派の声を黙らせてきたのかと言えば、それはもう身も蓋もなく「経済成長の実績」だったわけですよ。
それこそ経済が停滞気味だった00年代初頭のドイツだってあの頃はかなり欧州連合懐疑論が強かったし、2005年にフランスがEU憲法批准を国民投票で否決したのなんて、今のギリシャとほとんど同じ構図だった。

世論調査機関のIPSOSの出口調査によると、反対理由の第一位は、「現在のフランスの経済・社会状況に不満があるから」であった。その他にも、「政治全般に対して不満を示したいから」「シラク政権に対する不満を示す好機であるから」――等、国内の状況に目を向けた理由が挙げられている。賛成派では、この憲法が「米国や中国に対するヨーロッパの重要性を強化するから」「25カ国もの加盟国を抱えているEUの円滑な機能に不可欠であるから」――等、「EUそのもののあり方にどう影響するか」という視点にたつものが多いのと対照的である(グラフ参照)。

http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2005_7/france_01.htm

その意味で、危機以来経済成長が全くない――どころか経済が25%近く『縮小』し未だ元に戻らない今のギリシャでほとんど勝ち目があるはずなかった。


ここで繰り返される悲劇が愉快な喜劇な調子を含んでしまうのは、同時にまた彼ら急進左派連合(SYRIZA)の言うことってやっぱりこれまでもヨーロッパ各国にあった「反EU」を訴えるレトリックとほとんど同じなんですよね。結局のところ「反EU」を言うだけで現実的な代替案なんて存在しない。というか普通に考えれば、ただでさえ弱小な国がここまで完成したユーロから今更背を向けて生きていけるわけがない。故にこれまでの反EUを唱えてきた人々は半ば必然の結果として敗北してきたのです。
――反対する所までは元気だけれども、実際に政権につくと、まったく代替案がないまま自滅する。
少なくともECBの制度的問題の山場は越えた以上、おそらく今回のギリシャでも繰り返されるだけなのでしょう。悲しめばいいのか笑えばいいのか。


ともあれ、でもまぁこんなのは――まさに冷戦後にあのクリントンさんがタイトルの言葉で証明したように――現代民主主義政治における基本法則そのものでありますよね。自由で平和な民主主義であればあるほど経済成長こそが選挙の分かれ目となるいつもの風景。故にヨーロッパでは経済危機の度にもう毎回欧州連合そのものへの疑義へと直結し、その後の復活する経済成長によって敵を黙らせてきた。今回も上手くいくといいね。
まぁ問題はギリシャさんちは今度のトンネルを抜けるのがいつになるのかさっぱりわからない点なんですけど。


がんばれギリシャ