合意政治の限界について。
現代社会では直接民主制は機能しないという３つの理由とは？ | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
を見て考えたお話。
どうして現代社会では直接民主制は機能しないのでしょう？ この問題に関しては、これまでは「衆愚政治の中での直接民主制は最終的には独裁を呼び込む」とか「政治的判断に一貫性が出ない」というような議論がありました。そうした理由には一理も二理もあると思います。ですが、現代社会ではもっと具体的に以下のように理由を指摘できるように思うのです。
まず「自分が不利益になる変更ができるのか？」という問題です。ギリシャだけではありません。アメリカにしても、日本にしても経済成長が鈍化する中で、国民の生活水準確保の機能をいつまでも財政には依存できません。過去には可能であった行政サービスや福祉の給付水準を切り下げなくてはやっていけないという問題は、今でも様々な形で起きていますし、今後はもっと拡大するでしょう。こうした「自分に不利益な変更」を受益者本人が決定するというのは大変に難しいわけです。
現代社会では直接民主制は機能しないという３つの理由とは？ | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
色々賛否あったりするんでしょうけども、この辺りはしかし同意するしかないかなぁと。つまり（直接）民主制によって私たちは、『（少なくとも短期的な）自らに不利益となる選択肢』を選べるだろうか？
「支援策まとまったって？」「残念！ ギリシャちゃんでしたー」 - maukitiの日記
一昨日の日記でも書いたように、ギリシャの人びとがやろうとしている『国民投票』という選択肢を笑うことは確かに簡単ではありますけど、しかし私たち自身だってどうなるか結構怪しいものだと思うんですよね。むしろいつだって『既得権益がある奴らが反対するからだ！』と、それこそ私たち自身の口で叫んできたじゃないですか。そして現在のギリシャの構図は、まさにその通りのことが起きているに過ぎないとも言えるわけであります。「何故自分たちが緊縮財政を受け入れなければいけないのか？」と。
- 現在のTPP加盟の議論だって基本的な構図は同じでしょう。その代表的な反対勢力である農業の人びとは「自分たちの不利益となる」からこそ、当然の反応として、極当たり前に、それに猛反対するのです。
- 過去にあった小泉さんの時の郵政民営化の時も同様に、郵政の中の人たちとそしてその票を抱える人たちこそが中心となって反対勢力を形成したように。
- 直接民主制における「自分が不利益になる変更ができるのか？」という問題と直接に近い構図としては、議員たち自身の利益に深く関わる『一票の格差』やそれに伴う議員定数削減や選挙制度改革の問題が挙げられます。
- 年金支給引き上げ法改正、来年の通常国会はなし : 政治 : YOMIURI ONLINE（読売新聞）
- あるいは少し前に一瞬だけで出て速攻で否定された『年休支給引き上げ』も基本的に構図は同じですよね。現在の若い世代にとっては（支給年齢の引き上げや支給額の減少は）ほぼ完全に規定路線にも関わらず、しかし『今』不利益を被るかもしれない人たちにとってはそれが我慢がならないわけです。将来世代にとっては初めからもらえないということでしかないんだけれども、しかしこれから減額されるかもしれない人たちにとっては「もらえたはずのもの」がもらえなくなるからこそ、彼らはそれに本気で怒るのです。
- 殆どの全ての人が「このままでは年金はヤバい」という認識を持っているにも関わらず、しかしできるだけ早い改革ができないのにはこういう理由が一因としてあるのでしょう。「自分が不利益になる変更」を納得できないからこそ。
こうして見れば、これまで私たち自身によって叫ばれてきた「既得権益を守ろうとする人びとが悪いんだ！」というのは、確かにほとんどにおいて正しいのです。自分の利益が失われるかもしれないという恐怖の前では、正当性や合理性など些細なことに過ぎない。いつだって自らの利益が損なわれるからこそ私たちは真剣に全力にその政策議論に対して『本気で』反発するのです。
――ならばその既得権益を受け取るのが他ならぬ私たち自身だったら？
その答えは多くの人びと自身の言葉によって証明されていますよね。そして実際その通りだといえるでしょう。そう考えるとギリシャの人たちを簡単に笑えないなぁと。もし今回の件で何か教訓を得られるとしたら単純に「ギリシャはバカだなぁ」ではなくて、「（私たち自身だってどう振る舞うか解らないのだから）ギリシャのような所にまで追い詰められないようにしよう」という辺りでしょうか。
