『域内経済統合』は自由と保護の綱渡り

それは「壁がより外に移動しただけだ」なんて言う人もいらっしゃいますよね。


asahi.com(朝日新聞社):TPP交渉の参加表明広がる 域内経済統合の動き加速 - ビジネス・経済
TPP拡大へ交渉加速 カナダ・メキシコも参加意向  :日本経済新聞
にほんのえいきょうりょくはばつぐんだな!

 米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に、各国が雪崩を打つように参加の意向を示している。日本の参加表明に刺激を受け、カナダやメキシコも協議に入ることに意欲を示した。TPPは一気に拡大し、域内の経済統合に向けた動きが加速している。

asahi.com(朝日新聞社):TPP交渉の参加表明広がる 域内経済統合の動き加速 - ビジネス・経済

これを、抜け目がないカナダとメキシコが「日本を鴨葱しようとやってきた」という見方も勿論できるんですけども、しかしそれと同じ位には、日本の参加によって「選択の余地がなくなってしまった」両国という見方もできるんですよね。
日本が入る(かもしれない)以上、ただ座視するわけにはいかなくなってしまった。個人的にはあまり好きな言葉ではないんですけど、確かにそれはよく言われる『バスに乗り遅れるな』という構図に近い。それを見ると、何故か日本に甘い顔をして「おいでやすTPP」とやっていた、これまでの既存加盟メンバーの人たちの狙いも少しは理解できますよね。
つまりこうした域内経済同盟は、表向きは地域内の関税撤廃と自由貿易を謳っていたとしても、結果としてかつてのブロック経済とあまり変わらない働きをもたらすのです。域内の貿易が増える分、割を食うのは域外の貿易になってしまう。勿論それは単純なゼロサムゲームなんかでは決してありません。しかしそれでも、そうした地域経済連携協定は多くの場合でその域内での障壁を撤廃すると同時に、域外との障壁をむしろより高くしてしまう機能を持つようになってしまうのです。その相対的な差という視点で見れば、まぁ解らない話ではありませんよね。一方を据え置いた上で、もう一方を下げるのも、もう一方を上げるのも、確かに結果的にはあまり変わらないのだから。
これまでもTPP議論でちらほら言われていた『実はTPPは保護主義である』というのはその意味において、それなりに、正しいのです。
こうした、『低くなる内なる貿易障壁』と反比例しての『高くなる外への貿易障壁』という構図で、典型的なのが欧州の経済同盟であります。彼らはヨーロッパ内を自由にした分、結果としてヨーロッパ外との貿易量は減少した。そりゃ周辺国の人たちはこぞって欧州連合を目指してしまいますよね。そんな同盟が巨大であればあるほど、その圧力は大きくなっていく。それは利益を得られるかもしれないという希望と同時に、(仲間外れにされて)不利益を被るかもしれないという恐怖をももたしてしまうのです。


こうした構図を加速させるもう一つの大きな要因としては、(痛みを伴う)域内障壁の撤廃のバーターに、域外障壁を高めるような政治圧力が増大する、ということでもあります。
実際私たち日本でもまぁものすごい議論となっているTPPのお話ではありますけど、やっぱりそれは大なり小なりどこの国でも同じような話なわけです。そうした「損をする」人たちを一体どうやって宥めればいいのか? ――そうなれば代わりに何かを差し出すしかありませんよね。違反しない形(相手が怒らない程度に)で保護するとか、引き換えに『例えば』域外の「中国のそれを高めますから」とか。


まぁ実際、かつてヨーロッパでの経済同盟が進行しつつあったとき、こうした地域経済同盟の誕生が負の連鎖によって「再びブロック経済のような世界に逆戻りしてしまうのではないか?」なんてことが言われていたりしたわけです。結果としてヨーロッパのそれも、あるは北米のそれも、そこまで致命的な負の連鎖とはならなかったわけですけど。
アメリカと、そしてドル通貨の衰退が叫ばれる昨今)今回は一体どうなるんでしょうね?