アメリカ黄金時代の終わり

アメリカさんちの文明観の変化について。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/33707
少し前に盛り上がってたコーエン教授の『大停滞』議論から見るアメリカ経済の現状と将来について。

目新しいのは、コーエン教授が米国の苦境を次のように説明していることだ。
アメリカ大陸の経済は少なくとも17世紀から、もぎ取りやすいところにある果実を食べて楽しんできた。タダで手に入った土地・・・移民の労働力、パワフルな新技術などがその主なところだ」
「ところが過去40年の間にそうした果実は姿を消し始め、我々はそれがまだ残っているようなふりをし始めた。技術進歩が頭打ちになったこと、そして木々にはもう我々が期待しているほど実がついていないことを、ずっと認識してこなかった。それだけだ。それがいけなかったのだ」

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/33707

実際、現在から歴史として振り返って見れば、世界一にまで登りつめたアメリカの経済成長の源泉は、文字通り『新大陸』から獲得した広大な土地と、そして他国に先駆けた基礎教育の普及によって、というのはまぁ多くの人の同意する所ではあるのでしょう。しかしそんなアメリカ経済の常識が崩壊しつつあり、故にコーエン教授はそれを(残る一つの要因である「イノベーションの減速」と合わせて)「大停滞」と纏めている。
一体何でこんなことになってしまったのかってそりゃ、ただ単純に『新大陸』がもう消えつつあるからだと思うんですよね。もうそんなかつての開拓時代のような処女地は地球上に存在しないといっていいし、そして教育レベルの上昇だってある程度の所までいった所でその恩恵は受けられなくなってしまった。拡大・成長することを前提としたシステム――バイタリティ溢れる無邪気なやり方は、終わってしまったのだと。
確かにこれまではアメリカがそのやり方で成功していたのは間違いない事実としてありました。だからこそ彼らは個人においてさえも、きっと来年はより給料が増えていると信じて、あのバカみたいなローンを組んでいたりしたわけですよね。それはただ単純にアメリカ人たちがバカだったというよりは、それこそがアメリカの常識だったわけです。成長と拡大することが当然視されている社会。故にそれはフロンティア精神と、あるいはアメリカンドリームなどと呼ばれていたのです。


そんな無邪気なやり方で世界一まで登りつめたアメリカのやり方は、まぁそれ以外の国からしたら違和感を覚えるようなものでもありました。そもそも欧州や私たち日本にしても、そんな広大な新大陸なんて自分の周りにはどこにもなかったし、そして教育レベルにしてもどんどん新たに流入してくる移民や労働力なんてはじめからなかったわけだから。
しかしそれでも尚、アメリカの成功自体には間違いがなかった以上、私たちは彼らのやり方を一部取り入れたり拒否したりしてきたわけです。そして結果としてその是非をめぐって国内的な対立を生み出したりしてきました。まぁその意味でアメリカ(流の資本主義・自由主義)が他国に軋轢の種を輸出してきた、という一部反米な人たちが仰ることはそれなりに正しいのです。アメリカの成功は、私たちには無視するには大きすぎたのです。


しかしアメリカにとっては不幸なことに、そしてそれ以外の国にとっては悲喜交々であることに、結局のところ――そしてようやく、そんなアメリカの黄金時代がようやく終わりつつあるでした。
その意味でこうしたお話って、アメリカ文明がチートとして得ていたような初期ボーナスが終わった、というお話でしかないのかなぁと。チート国家から普通の国家へ。それは単純に失敗や没落というのもおかしな話であって、それこそ超大国からふつうの大国へ、という変化。これまでがむしろ明らかにおかしかったのであって、ようやく普通の状態に戻りつつあるんじゃないでしょうか
その意味でコーエン教授の仰る『大停滞』ってかなりアメリカ内側の見方に寄っているなぁとは思うんですよね。まぁ当人がアメリカ人なんだから仕方ないとは言えますけど。アメリカ人から見たら確かにそうなんでしょうけど、しかしアメリカの外から見たら、むしろこれまでが明らかに異様だったのであってそれを『大停滞』と称するのも、ようやく他の国と同じラインに立つことになった、ということでしかやっぱりないんじゃないかと思います。
つまり、アメリカ黄金時代の終わり、であると。