19世紀から「まるで成長していない」私たち

21世紀にもなったというのに未だに科学対宗教なんてやっていて「まるで成長していない……」なお話。


天地創造かビッグバンか?アメリカの結果に他の先進国「…おい!」:らばQ
わーたのしそー。どう見ても『事実と意味(価値)の混同』という、19世紀的な宗教対科学の不毛な対立からまるで成長していない人たち。現代神学とは一体なんだったのか。

宇宙はどんな風に始まったのか。

実際のところ誰かが行って見てきたわけではなく、今のところ確める術はないので、何を支持するかは個人の考え方や信仰によって決定されます。

「神による天地創造だと思うか?」
「あるいはビッグバンだと思うか?」
という2択アンケートが世界各国で行われました。

すると興味深いことに、先進国の中でアメリカだけがユニークな結果となったようです。

天地創造かビッグバンか?アメリカの結果に他の先進国「…おい!」:らばQ

で、いつもの宗教的価値観の傾向が強い人たちをバカにして終ると。いやぁそんな創造論を信じている彼らがバカなのか、それとも未だに宗教対科学なんてやっている私たちがバカなのかよく解りませんよね。まぁらばQさんに何を期待しているのかという身も蓋ないお話ではあるんですけど。以下微妙にマジレス。


乱暴にまとめてしまえば、そうしたお話は最早現代においては神学研究などのある程度以上のレベルにおいては過去のものとなっているのでした。なんでってそれは、もともと両者を同じ次元で比べることが間違っていたからだ、という当たり障りのない結論に落ち着いているからです。つまり、そもそもお互いが――科学が『意味』の領域にまで、宗教が『事実』の領域にまで――本来の活動から逸脱してしまったからこそ対立が生まれてしまったのであって、ならばお互いにその本分を越えなければ争う必然性もない、と平和共存できることにようやく私たちは学習したのです。
まぁ考えてみれば当たり前のお話ではありますよね。例えば、

  • 「宇宙や人間は何故生まれたのか?」という問いについて
    • 宇宙や人間はなぜ(どのようにして)生まれたのか?
    • 宇宙や人間はなぜ(何の意味があって)生まれたのか?

両者はまったく別次元のお話でしかありませんよね。前者は事実を言及しようとしている一方で、後者は意味や価値について言及しようとしている。宗教によって前者を説明できるわけではないし、しかし生物学によって後者を説明できるはずもない。それを一緒くたにしたところで議論が噛み合わないのは当然のお話です。
その意味で、本来の宗教の役割とは科学的知識ではなく意味解釈の伝達というものなのでしょう。まぁ過去の歴史では、それを見事に逸脱し『事実』まで説明しようとした結果、あの悲惨な歴史とそのゆり戻しである不毛な議論に陥っていたわけですけど。かといって科学サイドの方にも科学万能主義のような『意味』の領域にまで踏み込もうとするアレな人たちも結構居たりして、彼らは非科学的だと宗教を批判していながら、自らも科学万能主義という擬似宗教と化しているのは苦笑いするしかありません。多少なりとも賢明な科学者であるならば「宇宙や人間はなぜ(何の意味があって)生まれたのか?」という問いについて口を閉ざすはずなのに。宗教サイドと科学サイドのお互いのアレな人による戦い、まるでどっかのラノベのようです。
故に――もし科学が事実ではなく『意味』や『価値』にまで言及しようとするならば、あるいは宗教が意味や価値ではなく『事実』にまで言及しようとするならば――最早それは科学対宗教という構図でさえないのです。宗教対(擬似)宗教でしかない。そしてその価値観やイデオロギーの対立は多くの事例にあるように、それはもう不毛なことになってしまうと。


まぁこんなことは近現代辺りからの神学研究者たちによって、ほとんど共通認識というレベルで広まった普通の考え方であります。彼らは19世紀までにあった「科学対宗教」というあの不毛な論争に終止符を打つために、このような平和共存・相互不干渉・相互分離という結論にようやくたどり着いたのです。パウルティリッヒ*1、カール・ハイム*2等々有名どころの先生たちはそれぞれにその微妙な解釈の違いは勿論ありますけど、まぁそんな風にまとめてしまってもいいんじゃないでしょうか。


結局のところ衰退したのは別にアメリカの科学的教育なんかではなくて、むしろこうした神学論争自体の忘却こそが、こんなバカな状況を許しているんでしょう。そして逆説的に一般の多くの人びとにとって、過去にあったような不毛な対立構造に再び逆戻りしてしまっている。まさに先人たちが行ってきた議論や研究を見事に「知らない」が故に。無知の無知という感じです。
そんな現代神学における議論に(一般的に)疎い私たち日本人はともかくとして、しかしキリスト教の本場でもこんなことやっている時点でものすごく気の抜けるお話だなぁと。まぁ解りやすくて煽り易いネタだから、というお話でもあるんでしょうけど。特にアメリカなんて、そんな両側エスタブリッシュメントへの不信感を背景とした宗教対科学のような不毛な争いは大統領選挙にまで影響しているわけだし。


ということでこの件について多くの人たちが発する「あいつらはバカだ!」という言葉に、その意味する所はまったく別でありながら、しかし事実としてはあまり間違っていないなぁと生暖かい気持ちになってしまいます。まるで成長していない私たち。