現代の女性たちが直面するユメもキボーもないトレードオフ

見事過ぎるトレードオフで、男性の僕にはお手上げです。



クローズアップ現代『産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~』のツイートまとめ (2012.02.14) - Togetter
結婚と出産に関する「不都合な真実(?)」二題。 - QUIET & COLORFUL PLACE- AT I, D.
少し前にも話題になった『35歳で卵子が老化する』というお話。しかしながらこの多くの人が驚くお話は実際のところ、別にこれ「だけ」ならそこまで問題になる話ではないんですよね。まぁそれはこれまでだって人間ずっとそうだったわけだし。
女性は早くに出産を迎えれば迎えるほど好ましい。まぁユメもキボーもないお話ですよね。
この結論について更に――そして決定的に――悲しいものにしているのが(上記『見えない道場本舗』さんの言葉を借りると)もう一つの不都合な真実であるわけです。つまり、上記とはまったく逆のインセンティブである「女性は出産を早めれば早めるほど、生涯賃金が下降する」というこれまたユメもキボーもないお話があるのでした。結局のところ、現代に生きる女性たちはこうした両者によって典型的な二律背反・トレードオフに直面していることこそが、そのジレンマの大きな要因でもあるわけですよね。


アマリア・ミラー先生はこの問題について、『The Effects of Motherhood Timing on Career Path*1』という論文で人口経済学の視点から明確に提示してみせました。

  • 平均して、二十代の女性が第一子の出産を一年遅らせれば生涯賃金は約9%増加する。

それは出産による「昇給の遅れ(3%)」と「労働時間の減少(6%)」によって導かれる、と。詳細な数字はともかくとしても、まぁ言われてみればごく当たり前の結論ではありますよね。そしてこの数字は一般に大卒や専門職など、高学歴・高キャリアな女性ほどその差は大きくなるとも指摘しています。他の条件が全て同じ、三十四歳で十歳の子供を持っている女性と、三十四歳で九歳の子供を持っている女性の、こうした約9%という昇給と基本給の差について。


よく意識の高い人たちが言う「働く女性たちの支援を!」とやった所で、実際こうした問題が解決されるとはとても思えません。彼女たちが必然的に向き合う出産と昇進(生涯賃金)のトレードオフ。それを短期的に金銭で埋め合わせることは確かに出来るけれども、長期的に埋めようとした場合それを一体どうやって算出するのか? ――そしてそもそもそんな彼女たちの失われた時間は「金で埋め合わせ」がきくようなものなのか? と。勿論必要最低限の支援があっても尚、『有給育児休暇制度』やらなんやらでは決して埋め切れるものではありませんよね。
その意味で、以前も少し書きましたけど僕は現代社会では仕事環境における『男女均等なんちゃら』なんてものはものすごく胡散臭いものだと思っています。勿論それを目指す努力自体は否定するところではありませんが、しかしそれは逆説的に、そんな平等な社会を目指せば目指すほど皮肉にもこの差、出産と仕事というトレードオフ、は断絶し埋めがたいものになっていくのではないでしょうか。少なくともSFちっくな完全人工出産のようなものが一般的になるまでは。




医学として「できるだけ早く産め」と要請され、しかし同時に経済学的に「できるだけ遅く産め」と要請される現代の女性たち。
この悲劇的で、そして決定的な、トレードオフに直面する現代の女性たち。いやぁほんと頭が上がりませんし、男女平等なんて簡単に言えません。だってどうやってもその埋め合わせをすることなんてとてもできるわけがないと思うから。そして「そりゃ少子化にもなるよなぁ」なんて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?