どうにかこうにか経済危機を乗り越えた後だからこそしみじみと感じる『不安感』

「もう二度とこんなことはゴメンだ」なんて。


米中間選挙の隠れた争点は「格差是正」 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
最低賃金改正の住民投票の結果を見ると、経済格差が隠れた争点の一つだった、というのは納得できるお話かなぁと。少なくとも外交政策のゴタゴタと比較すればずっと上手くやったと言えるし、あの経済危機から立ち直らせたのはやっぱり政権の成果と言ってでしょう。雇用率も――幾らか数字のマジックの存在はあるにせよ――概ね改善したと言っていい。ただ、じゃあそれで新たな職を見つけた人たちが、職を失いながらもどうにか立ち上がった人たちがそれだけで満足するかというとまったくそんなことなかった。


経済危機を乗り越えたので、めでたしめでたし――なんてことあるわけない。


そうした危機を乗り越えただけで、格差問題などの根本的な解決になっているかは別問題なんですよね。むしろ危機を乗り越えたからこそ、その後には「より」根本的な解決が求められるようになってしまった構図。まぁそれは端的に言って幾ら「ザ・チェンジ!」なオバマさんだからと言って、あまりにも過剰な期待というしかない。

 この投票行動をどう見たらいいのか、まず一つあるのは「多くのアメリカ人にとって最低賃金は他人事ではない」のです。90年代まで、あるいは2000年代の半ばまでであれば、家族や友人の多くがフルタイムで働き、例えば5万ドル前後以上の年収を得ていた人は相当数いたと思います。つまり、自分の身の回りに「最低賃金を意識するような人は少ない」という層が相当数いたということです。

 ですが2008年のリーマンショック以降は、自分の家族や周囲の中に「量販店や外食などで最低賃金に近い水準で働いている」人がいるとか、見聞きすることが増えたのです。つまり多くのアメリカ人にとって今や「最低賃金は他人事ではない」という感覚があります。

米中間選挙の隠れた争点は「格差是正」 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

まぁこの辺は別に今になって――リーマンショックの後になって唐突に始まったお話でもなくて、不景気に際しての中間層たちが抱く経済的な『不安感』というのはもうここ数十年ずっとじわじわと増加を続けるトレンドではあるのです。つまり単純に経済格差というだけでなく『収入の劇的な変動』という意味で。概ね短期間で次の仕事を見つけることができるとは言え、しかし将来への不安と言う意味では、こうした収入変動こそが現代人にとってのプレッシャーとなっている。
唐突に職を奪われ生活が不安定になることへの、現代人の持つ根源的な恐怖。そしてその是正要求は今だからこそここに来て――最悪の経済危機を乗り越えた後になって、一気に噴出しているのだと思います。


しばしば日本でも言われる他人事でないお話ではありますが、かつてあったような変化の少ない勤続形態から激動の資本主義による競争社会へと突入した私たちは、多かれ少なかれそのような経済的な安定に不安を抱いているわけです。シュンペーター先生が言う所の、劇的な『創造的破壊』の世界に生きる現代の私たち。終身雇用はさすがに言い過ぎとしても、しかし数年先の状況すら見通せないのはとても辛い。
確かに失職を機会と捉えて揚々と転職する人だっているでしょう。ある程度の刺激は人生のスパイスにもなるかもしれない。でも少なくない人にとって、特に家庭を持つ人たちにとっては失敗の経験であり、同時に収入の激変を意味するわけです。
こんな状況で将来に安心を持てるわけがない。いくら乗り越えたとはいえ、経済危機への不安感は増すばかり。
最低賃金は単純に格差云々というよりも――実際最低賃金を上げた所で非難されている超高額報酬を貰う上位層へはほぼ影響がない――むしろこういう状況から望まれているのではないかなぁと。経済的不安定感から、収入の変動を少しでも減らそうとしての切実な望み。世界中で言われる『経済格差問題』のもう一歩更に奥にはこうした不安が隠されているのではないかと個人的には思っています。そして、おそらくこちらの方がずっと大きな問題に繋がるんじゃないかと。



ただこれって現代資本主義に関する本質的な議論に踏み込みかねないので、オバマさんにいきなりどうこうしろというのはちょっと同情すべきお話かもしれない。
外交政策の『中身』が重要なのではなく、外交政策決定の『見た目』こそが重要である - maukitiの日記
昨日の日記でも触れたように、そんな難題に立ち向かう大統領として彼が有権者から「無理そう」という烙印を押されたのは、やっぱりあの外交政策決定のプロセスのグダグダさ加減による大統領としての政治的指導力への幻滅という要因もあったりするので、概ね自業自得でもあるんですけど。オバマさんにはこの大難題は解決できそうにない、なんて。



みなさんはいかがお考えでしょうか?