私たちにとってあまりにも魅力的過ぎる緊縮財政

政治家の経済オンチ、というよりは有権者にとっての政治的ハードルの問題なお話。


スティグリッツ教授:欧州の緊縮策は「自殺」への処方箋 - Bloomberg
欧州だけでなく日本に住む私たちにも耳の痛いお話ではありますよね。
これまでの日記で、欧州のそれは欧州連合という集団の一体感の欠如が招いた「何で俺たちの税金を怠惰なギリシャに与えてやらねばならんのだ」という辺りにあるのではないか、とは書いてきましたけど、それとは別にもっと根本的な現代の有権者たちが抱える心理や思想が問題になっているんじゃないかなぁと。

 4月26日(ブルームバーグ):ノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョゼフ・スティグリッツ氏は、欧州大陸は緊縮策に重点的に取り組むことで「自殺」に向かっており、「悲惨な」状況にあると指摘した。
スティグリッツ氏(69)は26日にウィーンで記者団に対し、「いかなる大国でもこれまでに緊縮プログラムが成功したケースはない」と述べ、「欧州のアプローチは間違いなく成功の見込みが最も薄いものだ。欧州は自殺に向かっていると思う」と語った。

スティグリッツ教授:欧州の緊縮策は「自殺」への処方箋 - Bloomberg

ということで少なくない人たちが以前から懸念しつつ静かに声を上げていたものの、見事に結果が出つつあるのにいつまで経っても方針を変えないので、いよいよ余裕のない物言いになってきた感です。不況の時に緊縮財政なんてやったらあの大恐慌の二の舞ではないか、なんて。まぁ確かにその通りですよね。見事に同じ道を通っている私たち。
しかしまぁその点をして一般的な経済学者たちが賢くて、それをしない政治家たちがことごとくバカばっかりなのかというとそうでもないんじゃないかと。
つまり重要なのは――クルーグマンさんなんかが芸術的なレベルで言葉を弄して表現しているような――「政治家たちが『バカ』だからそれが出来ないんだ」というだけではないと思うんですよね。勿論そうした要素がまったく無いとは言い切れませんけど。結局のところ、それは政治家や官僚の資質云々というよりは、有権者が正しく歴史から学んだ結果としてこうした方向に走ってしまっているんじゃないかと。
「国はもっと投資を増やすべきだ」確かにその通りなんだけれども、しかしそれでも失敗したではないか。無責任な大きな政府はそうやって無駄遣いをしてインフレを招いたではないか。


もうこれまでも何度も書いてきたんですけど、この緊縮財政をめぐるお話って、つまりそういう所に落ち着いてしまうんじゃないでしょうか。
結局のところ、私たちは根本的に政府を信用していない。実際それはかなりの部分まで「経験に基づいた」正しい認識であるのでしょう。政府は放っておくと幾らでも増長し傲慢になり怠惰になっていく。1970年代の大不況から決定的に学んだ教訓。そんな私たちが選び監視している政治家がほとんど無意識的・反射的ににそれを選択するのも理解できない話ではないと思うんですよね。
それは単純に経済政策から来る政治不信というだけでなくて、もっと身近で瑣末な所から刷り込まれているじゃないですか。政府がやることはムダばっかりでバカなことばっかりだ、なんて。


かくして、こうした意識が日常的に刷り込まれている私たち有権者とそして政治家たちが、危機が迫った時に緊縮財政に走ってしまうのも当然の帰結としか言い様がありません。だってそこまでの信頼感がないことを彼らも自覚してもいるんだから。そんな私たちが――ミクロな経済感覚に従って――赤字を減らすために支出を拡大するとんでもない、と声をあげてしまうのもやっぱり別に不思議でもなんでもないです。
経済学者たちがきちんと説明できないのが悪いのか、政府と政治家が信頼を失っているのが悪いのか、あるいはそんな不信感を抱く私たち有権者が悪いのか。さて、この構図において、一体誰が一番悪いんでしょうね?
まぁ民主主義政治の限界といってしまってはそれまでなんですけど。(いつものオチ)