笑ってはいけないギリシャさんちの不動産税の末路

今尚「見せしめ」という役割をこれ以上ないほど果たしまくっているギリシャ


昨日15日付けの読売新聞さんちのそこそこ面白く見ている国際面の企画『in-depth』で「緊縮ギリシャ 凍える生活」という興味深いお話がありまして。

◆電気を元通りに
冬のギリシャではここ数年、料金を止められた家を回り、メーター内の配線をつないで元通りにする電気工が「活躍」している。電力会社の許可は得ていない。
「冬の電気は命綱。人助けだから違法とは思わない」
アテネの住宅街のアパート。電気工の男性(25)が地下室の配電盤の前で言い切った。日に3〜4軒回ることもあるといい、「欧州で、電気がない国なんて異常だよ」とまくし立てた。
背景には政府が財政再建の一環で導入した「不動産税」の徴収があった。電気料金とは別に負担が増えることになり、支払えずに滞納し、電気が止められる世帯が急増した。政府の推計では、2013年12月現在で約25万戸に達する。温暖なギリシャでも氷点下になる地域があり、今冬も多くの滞納者が寒さに震える。
(略)
一酸化炭素中毒
電気差し止めは、思わぬ事態を招いた。代わりに慣れない火鉢などを使ったことで、失火や一酸化炭素中毒が相次いだのだ。
昨年12月には北部テッサロニキで、火鉢を使っていたセルビア人の母娘が一酸化炭素中毒になり、13歳の少女が死亡する事故が起きた。アテネでは、薪を使う人が増えて大気汚染への影響も懸念され、政府は1月から、不動産税と電気料金徴収の切り離しを余儀なくされた。

ヤバイヤバイと聞いていたけども、ここまでヤバイとはなぁと。
ギリシャが新たな不動産税、歳入2000億円超で財政不足穴埋め| Reuters
というか2年前の『不動産税』の導入の際にも一応当時から概観だけは聞いていたものの、まさかこんなオチになるとはまったく思いもよりませんでした。

[テサロニキ(ギリシャ) 11日 ロイター] ギリシャは11日、今年の財政赤字穴埋めへ向け、不動産税の増税策を発表した。ベニゼロス財務相は、20億ユーロ(約2106億円)程度の歳入増となる増税閣議は了承したとし、電力料金とともに集められる通常とは違う徴税法のため、迅速に集められる即時有効な施策だと述べた。

ギリシャが新たな不動産税、歳入2000億円超で財政不足穴埋め| Reuters

もちろん「ギリシャ人は税金を納めない」という身も蓋もない見通しもこれはこれで苦笑いするしかない状況ではあるんですが、だからといってそんな脱税される可能性を税金をどうにか徴収するために、電気代とリンクさせようとする発想もまぁ今更ですがすごいですよね。で、結局は電気代払えなくて貧しい庶民たちは暖房手段を奪われた冬の寒さに震えるという少ない構図に陥り、そしてそんな状況を打破するために今度は半ば黙認的に電気を窃盗することが流行っているっていう。その強制という選択肢が正しかったことが証明されてしまった。
すげぇ、なんていうかギリシャすげぇ。
ギリシャ「われわれはヨーロッパ一勤勉な国民である」 - maukitiの日記
Corruption across EU 'breathtaking' - EU Commission - BBC News
さすが『自称』勤勉度ナンバーワンだけど汚職度でもナンバーワンであります。
正直端から見るとまったく何やっているんだかわからない構図でありますけども、それでもこうした不動産税の半強制徴収はそこそこ上手くいったらしくて、実際20億ユーロほどの収入増を達成していたらしいです。まぁこうして上記社会的な騒動もあって電気料金との連動を撤廃されちゃったわけですけど。しかし20億ユーロの増収か……、ちなみにギリシャってもう数千億のオーダーで支援受けてるんですよねぇ。




ともあれ、上記の例のようにものすごく場当たり的な政策――もちろん根本的にはギリシャの腐敗や汚職がひどかったのはあるとしても――に邁進しなければならなかった理由は、あの恐るべきトロイカからの要求があったわけですよね。ギリシャ政府の中の人たちだってそれが場当たり的で、泥縄で、そしてギリシャ国民から恨みを買うとわかっていても、しかし彼らは融資を受け取るために緊縮せざるを得なかった。
まさに経済を立て直す為にこそ。
ところがぎっちょん、経済を立て直し再びギリシャに投資を呼び戻そうとトロイカから融資を得ようとした結果、政府の過激な政策による「痛み」のために市民たちは分裂し社会の安定性を失いどこまで落ちていくギリシャ
こうしたギリシャのまったく悲劇な風景が、世界でも希少な事例なのかというと実の所まったくそうではない、というのがこのギリシャのお話が真に悲劇的であり、ついでに笑うしかないお話である所以でもあるんですよね。つまり、巨額の融資と引き替えにしてこうした過激な――ぶっちゃければバカげた――政策を押しつけられ、結果として経済的にも政治的にも社会的にも死ぬほどロクでもない目にあう、というのはそれこそ(今回の当事者の一人でもある)IMFがしでかしてきた数々の失敗の歴史にたくさんあったりするんですよね。
東アフリカでも、そして20年前の東アジア危機でも。
ワシトンコンセンサスの犠牲者たち。現在進行形のでその失敗例の最先端に立ちつつあるギリシャ。いやぁ救えないお話であります。


そして同じ欧州連合の下に住む人びとは、そんなギリシャの惨状=まったく「主権」などなくなってしまったかのような国情を見ては、次は同じ欧州連合の下に居る自分たちもあんな目に遭わされてしまうのかと戦々恐々と見つめることになる。笑いと、怒りと、そして恐れの混じった眼差しで。
そりゃ反欧州連合の機運が盛り上がるのも無理はありませんよね。
がんばれギリシャ