かくして暴虐な王はギロチンの露と消え――なかった

なぜ彼らは『ギロチンを求めるデモ』にまで至ってしまうのか? なお話。


ムバラク前大統領に終身刑、エジプト 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでムバラクさんが終身刑となったそうで。「もちろん無罪はアレだけど、死刑もアレだし……、じゃあ間を取って終身刑にしよう!」というとても身も蓋もない妥協の産物というか、あるいは現実的な選択ではあるのかなぁと。ここで最後の手段を発動しちゃったら、最終的にフランス革命のようにギロチン祭りになってしまうことを恐れる気持ちはよく解ります。
死刑の是非についての云々はともかくとして、やっぱり政治的手段――特に『正義』の執行として――としてそれを用いることの恐ろしさについて。まぁこんなことはフランス革命の『その後』の歴史を見れば一目瞭然ではありますよね。革命そのものよりもずっと血が大量に流れた革命後の社会について。
ムバラク前大統領の終身刑判決に抗議、エジプト各地でデモ 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News
しかしまぁそうはいってもそれで民衆を納得させられるかというとそんなことはさっぱりないのでした。
こうして民衆は怒り狂ってしまう。決定的に第三者で傍観者たる私たちからすると「一体なんでこの人たちは毎度毎度暴れまくってしまうんだろう」と素朴な疑問を抱いてしまいますけども、しかしある種の極限状況下にある人びとに冷静な判断をしろというのも無理なお話ですよね。戦場の兵士たちはなんであんなに生物的に正直になってしまうのか、というお話に近いモノがある気がします。だって人間だもの。



さて置き、こうした人びとが怒ってしまう気持ちはまぁそこまで解らなくはないんですよね。だって現状の成果としては、そもそもの彼ら自身の苦しい生活――つまり革命の契機となったモノの一つ、についてはまったく改善される見込みはないんだから。唯一の解りやすい変化としては少し前にあの民主的選挙があったわけですけど、まぁそれも結果として「旧体制(軍)vsイスラム主義」というとてもアレな結果が出てしまったわけで。
「アラブの春」は雇用環境を改善せず
そして元々求めていたはずの『生活の改善』はまったく進む気配はないと。政治もアレで、経済もアレで、そして社会は混沌したまま。そりゃ絶望のひとつもしたくなっちゃいますよね。『アラブの春』とは一体なんだったのか。

 ジュネーブの「国際労働機関(ILO)]の調査は、中東と北アフリカのアラブの若者たちが労働と雇用の分野で「アラブの春」の諸革命の結果からさほど受益していないことを示した。若者たちが2010年末にチュニジアで革命が勃発した際、社会的な動向の担い手だったにもかかわらずである。チュニジアに続き、諸革命はエジプト、リビア、シリア、その他の地域の諸国へと拡大した。経済の後退と資金の不足は、労働市場に悪影響を与えた。そして、若者、特に大卒者の失業者数は増加した。

 この調査は、今年(2012年)の世界の労働市場の悪化を扱ったもので、北アフリカの若者の失業率が5%増加して27%になったことを示した。この率は、世界の平均的失業率と推定される12.7%を上回っている。失業率は、アルジェリアでは21.5%、エジプトとチュニジアでは約30%、モロッコでは17%であるが、これはあらゆる年齢、社会・文化・教育水準(に属する者を)含んだ失業率である。

「アラブの春」は雇用環境を改善せず

かくして民衆の不満や怒りは、解りやすい「ムバラクさんへの死刑」という方向へ流れていってしまう。それさえやれば上手くいくはずなのだ、それこそが我々の苦しみの根源の一つなのだ、なんて。
端から見ている限りはあんまりそうは思えませんけども、しかし彼らはそう確信している。だってそうでなければこれまでやってきたことは一体なんだったのか? 


その先にあるものをひたすらに求める人たち。より先鋭化していく人たち。まぁなんというか悲しいお話ではありますよね。
しかしこうして見るとエジプトは益々フランス革命らしくなってきているよなぁと。ここであっさりギロチンに走らない辺り、実は進歩しているのかもしれません。しかしこうなると次はナポレオンフラグですね!
がんばれエジプト。