魔法の切れたオバマくんと、千載一遇のロムニーちゃん

久しぶりにアメリカ大統領選挙の適当なお話。


米大統領選の共和党候補にロムニー氏が確定、米メディア 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
オバマvsロムニー、世論調査で接戦…本日NHK「クローズアップ現代」で - QUIET & COLORFUL PLACE- AT I, D.
ということで共和党候補者としても正式に決まり、いよいよ舌戦――という名の不毛な争い、が始まっているアメリカ大統領選挙であります。「ロムニーは吸血鬼だ」とか「オバマは経済バカだ」とか、まぁみんしゅしゅぎってすばらしいなぁと改めて思ってしまいますよね。
モルモン教徒の大統領を受け入れる準備は米国にあるか? 2012米大統領選 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
でまぁモルモン教徒なロムニーさんではありますけど、今回そうした『宗教』が選挙争点になるのかというと、多分そんなことはないんだろうなぁと。前回はそれこそ肌の色という人種がテーマの一つとして掲げられ、そしてその空気はかなりオバマさんに味方したわけですけども、しかし今回はそんなこともなく、フツーに経済政策の手腕が問われる選挙になるんじゃないでしょうか。


ちなみに最近『宗教』が重要な争点になった選挙といえば、2000年の大統領選挙でありました。何故あの時アメリカで『宗教』が重要なテーマになったのかって、そりゃ特に他に重要な話題がなかったからですよね。1990年代末のアメリカは概ね好景気に沸いていたし、そして安全保障・外交政策における重要な脅威などは見事に存在しなかったわけで。冷戦と9・11に挟まれたアメリカの平和の時代。
そうした空気――経済問題よりも社会における道徳問題を危惧する――の中で、ブッシュさんのチームはその解決策としてより宗教や信仰心を重視するというものを打ち出し、見事に僅差で勝利することになったのでした。まぁだからこそ政治に宗教を持ち出すことを気に食わないリベラルな方々からものすごく反発を受けることにもなったのでした。しかし、それでもそうした「宗教を大事にしよう」という姿勢はアメリカにおける少なくない人びとの同意を得ることに成功したのです。


千載一遇のロムニーちゃん

翻って現在、まぁアメリカさんちも世界的な経済危機の構図にあって、当然他人事なんかではありませんよね。
1929年からの大恐慌並と言われる状況にあって、人びとの願いは「宗教とかどうでもいいから何とかしてくれ」という身も蓋もなく切羽詰ったものであると。まぁ気持ちは解らなくはありませんよね。最近もまた5月の雇用統計がかなりアレな数字が出てしまったみたいで、向こうでは盛り上がっているようです*1
こうした状況下にあってオバマさんのロムニー批判がいまいち盛り上がりに欠けて、支持率も良くて五分五分、悪いとやや劣勢にあるとさえ報じられてしまうのも、やっぱりそういう理由なのでしょう。
つまるところ、彼がモルモンだとか過去に同性愛者を苛めていたとか、瑣末なと言ってはアレですけど別にそれは決定的な問題ないわけで。むしろオバマさんの側がロムニーさんの経営歴を「搾取的だ!」批判すればするほど、逆にそんなロムニーさんの経済における手腕ばかりが際立ってしまうというオチに。対するオバマさんの経済政策の実績の方は見事に現状の数字が――もちろんそれはオバマさんだけの責任というわけではないにしても――証明してしまっていて、かくしてますます「いいから経済をどうにかしてくれ」というオバマさんへの声は強まってしまう。まぁなんというかご愁傷様です、としか言いようがありません。


その意味で、多少の問題はあっても経済に明るいロムニーさんがこうして選ばれたのは、こうした時代にあって(共和党において)やっぱりそれなりに正解ではあったのかなぁとは思います。彼のモルモン教という点にしても、一般にモルモン教徒といえばユダヤの人と同様に「経済的成功者」というイメージもまた強いわけで。


魔法の切れたオバマくん

対するオバマさんといえば、やっぱり『魔法』が切れてきた感は否めませんよね。まぁそれがなくてもそれなりにいい勝負はできるんでしょうけども、しかしかつてあったモノがなくなってしまったという喪失感はやっぱり大きいわけで。その点が余計に影響を及ぼしているのかなぁと。
元々オバマさんのそうしたパワーの源泉は、アメリカの若者層を中心とした「それまで政治に無関心だった人びと」を引き付けた点にあったのでした。
よく私たち日本でもそうしたことが嘆かれたりしますけど、しかしそれはアメリカでも全く同様で、むしろほぼ完了している日本と違って現在進行形な分アメリカではより大きな問題として言われていたりしました。世界に誇るべきアメリカ民主政治に対する民衆の諦観。政治では何も変わらない、だから何も期待しない、なんて。
オバマさんはそうした人びとに熱狂と共に夢のような政治変革というビジョンを提供したのです。「私たちは変えられる!」と。


しかしそうした魔法はこうして切れてしまったのでした。結局オバマさんは何も変えられなかった。別に「過去の大統領以下だった」なんて風に絶望されてしまったのではなくて、「これまでの大統領と何も変わらなかった」と諦められてしまったのです。十二時を過ぎて普通の人に戻ったオバマさん。マジックは終わってしまったのです。
だからといって失望した人たちが逆にロムニーに投票するなんてことはあんまりなくて、むしろ普通にまた投票に行かなくなるというだけなんじゃないかと思います。それでも元々「反オバマ」だった人はそんなこと関係ないわけで。この辺りが現在のオバマさん苦戦の理由ではあるのでしょうね。



更に経済が悪化するとロムニーさんが勝っちゃいそうだよね、という普通のオチ

こうしてみると、多分ロムニーさんでは2000年も2004年も2008年も勝てなかっただろうけど、しかし深刻な経済危機に揺れる2012年が唯一勝てるチャンスがあったりするんじゃないかと思ったりします。
逆にオバマさんは2000年も2004年も2008年も勝てたんだろうけど、しかし深刻な経済危機に揺れる2012年が唯一負ける可能性があるんじゃないかと。
最も調子のいいロムニーさんと、最も調子の悪いオバマさん。まぁそれでも五分五分な辺りは、やっぱりオバマさんの強さが窺えますけど。


ともあれ、まぁぶっちゃけロムニーさんの側は経済指数が悪化するたびにニヤニヤが止まらないのではないかなぁと。ヨーロッパでは再び導火線に火がついてしまいましたし*2ギリシャさんが逝ってしまったらオバマさんも逝ってしまうのではないかなぁと思うと、なんだかワクワクしてきます。ギリシャがヤバいとオバマがヤバい。逆にそこが助かればオバマさんの再選の目もかなり出てくると。


まさかの「がんばれギリシャ」オチ、ということでひとつ。