地獄とは対抗言説の不在なり

マスコミが衆愚に陥りながらも、インターネットがギリギリの所で踏みとどまっている理由について。


衆愚の正体: Meine Sache 〜マイネ・ザッヘ〜
なるほどなぁと。大変よく解るお話であります。

テレビでの仕事を通じて、自分も大衆の愚かさを幾度となく思い知らされました。感動の押し売りに辟易して、ありのままに伝えようとしても大衆は見向きもしてくれず、作られた軽薄な感動をありがたがります。エーケービーとケーポップを聴きながら、「ホテルのバー通い許せない!」と詐欺団に権力を委ね、スカイツリーとパンダのまわりで踊るのが大衆なのです。大衆を説得できないのは自分の表現力のなさとかそういうレベルではなく、畜生のようにバカなのです。

衆愚の正体: Meine Sache 〜マイネ・ザッヘ〜

それはそうなんでしょうね。家で長時間テレビを見るような人を規準に合わせればどうやってもそうなってしまうのはある種の必然の帰結ではあります。かくして新聞にしろテレビにしろ週刊誌などにしろ、そのどれもが益々「よく見る人」専用となっていき先細っていく。
ただまぁ個人的にはそれはそれで良い――というか仕方ない――とは思うんですよね。バカを相手にしてバカに受けるように番組を作る。現実問題として効率・売り上げ・視聴率を考えたらそうなるのも理解できます。ニーチェ先生なんかも私たちは必然的に「恒常的な偽の情報」に延々と晒され続けているのだ、と身も蓋もなく仰っていましたし。


しかしこの構図において心底理解できないのは、ほんともう一体彼らは何で揃いも揃って同じことしかやらないんでしょうね?
上記テレビの例を挙げれば、エーケービーとかケーポップとか、どこのチャンネルを回しても猫も杓子もそればっかじゃないですか。勿論メディアが変われば批判することもあるんでしょうけど、少なくともテレビでは、「ブームに乗る」か「乗り遅れるか」の二択しかない。なんであなたたちはみんな仲良く同じことしかやらないのかと。人気があることとは全く別問題で、必ず絶対反対な人たちが居たっておかしくないはずなのに。
つまるところ、彼らの中には『対抗言説』が全く存在していない。だから誰も彼もが同じ顔をしてしまう。
いや、それも真になかったらそれはそれで良かったのかもしれません。しかしマスコミの人たちの優秀な所は、そうした状況下にあって尚「でもパンダなんて所詮薄汚いクマですよね」なんていう風にアウトサイダーとしてのエクスキューズを用意している所にあるのです。そうしたある種「空気の読まない」発言を巧妙に入れることで、結果として与党内野党な状況を作り出し、「一部批判もあるけど総体としては○○だよね」という空気を作ることに成功している。
結局どのチャンネルを見ても全部が全部同じことしかやっていない。だから競争もクソもない。それってチャンネル分けている意味がどこにあるのかと。



けどやっぱりそうした対抗言説という需要自体はあると思うんですよね。例えばアメリカのfoxニュースの興隆にしたって、これまでのバカじゃなくて逆側のバカをメインターゲットにすることで、結果として全米で最も視聴率の取れるニュースチャンネルになったわけで。
しかし敢えて日本ではそれをやらないということは、やっぱり現状が安住できるポジションでもあるということなのでしょう。同じバカを相手にする商売であるならば、みんなで一緒に同じことをやっている方が楽ではないかと。まぁ確かにその通りではありますよね。だってそうやって共犯関係にあればお互いのことをお互いに誰も責めたりしないんだから。
まぁそれを他の場所でやったら『寡占』と言われるか、外資に食べられてしまうんですけど。


上記リンク先で語られているような、マスコミが衆愚に陥る原因ってそうした所にもあるのだと思います。対抗言説がまったくないこと。だから彼らは、エーケービーも、ケーポップも、コイズミも、セーケンコータイも、オザワシントーも、ゲンパツも、そうやってすぐに一色に染まってしまう。しかもそれはを欠陥などではなくて、むしろ彼らはそれこそが自らの能力の証であると自負さえしてきた。いやぁバカみたいなお話ですよね。
本来であればそうしたバカみたいな『世論形成』について彼らの同業者こそがまずはじめに「そんなものでっちあげだ」と叫ばなければいけなかったはずが、しかし彼らはその安住の地を捨てたくない為に、延々と同業同士身内でカバーしあってきてしまった。そしてそんな閉ざされた平和な世界は、いつしか外からの侵略者によってその存在意義そのものを否定されてしまう羽目に。せめて誰かが抜け駆けして対抗言説のポジションを作っておけば、ここまで決定的に彼らの世界そのものが疑われることまではなかったはずなのに。
しかしそうはならなかった。
そろそろいい加減『最初の裏切り者』が出てきてもいいんじゃないかなぁと少し期待しております。



ともあれ、しかしこのお話を更に突っ込んでいくと、電通博報堂の二大広告代理店の支配体制(だからお互いの相手も批判できない)とか記者クラブによる独占体制とかのお話になってしまって、一体お前は誰と戦っているんだ的なアレな子になってしまうのでここら辺でお開きにしたいと思います。