正統性と実効力のトレードオフ

国連がその誕生以来ずっと抱える根本的な欠陥でありますよね。まぁ現代世界におけるあらゆる国際機関に通じる普遍的な構造問題と言っては身も蓋もありませんけど。根本的に無政府状態に生きる私たちの限界。


国連シリア監視団、任期延長せず撤収 国連安保理 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでシリアの停戦「監視団」は、その停戦合意が眼前で破られ戦闘が再開されるのを文字通りただ「見ていることしかできなかった」のでありました。まぁその監視という任務からすれば正しいお話なのかもしれません。おかあさんに「ちょっとオナベ見てて〜」と頼まれてその鍋が吹きこぼれてもただ見てただけ、という感じです。ドモホルンリンクルか!


結局のところ、彼らにはその国連特使という誰もが納得する『正統性』は与えられたけど、しかしその代償に『実効力』を完全に剥奪され目の前の現実にまったく影響を及ぼせない監視団となっていたわけですよね。故に非武装であり少人数であり見ているだけしか出来なかった。まさに彼らは安全保障理事会での合意を得る為に(中露から妥協を引き出す為に)、その実効力は正統性の犠牲となってしまった。この前のイラク戦争でもかなり明確になったお話ではありますけど、やっぱり国際的な合意を得ようとすればするほどその中身は骨抜きにされていくし、逆に実効力を保持しようとすればするほど国際的合意は諦めざるを得ないわけであります。


だからあのブッシュさんの批判されまくったイラク戦争の単独行動を一方の極北とすると、しかしもう一方には今回のようなシリア停戦監視団のまったくの無力さが極北として存在することになるのです。完全な実効力を求めた構図と、完全な国際的支持を求めた構図。そのどちらも結果としては両極に燦然と輝くそびえ立つクソであります。
せめてもうちょっと中間のバランスの取れれば良かったものの、しかし現状の国連でそうしたことをやろうとすると必然的に「誰かの支持」を諦めなくてはいけないわけで。あるいはそれでも共有する正義や目的や理想があれば別だったかもしれない。しかしそれもピンキリな国連加盟国たちを見れば、そんなもの何も求められていないのは一目瞭然ですよね。そしてその安保理改革などの根本的な改革に対しては既得の権益層が猛烈に反発することになると。
まぁもし改革に成功したらしたで――例えばもし『多数決』で武力行使が決議されるようになったら、それはそれでほぼ確実に破綻することは見えているので、現状がそこまでで悪いのかというとそうでもないだろう、と思ってしまうのがこのお話の救えない所であります。そもそも土台が駄目すぎて上の構造物をどうにかしても何も解決しない。
少なくとも建前としては現代の国際社会における最強の正統性を付与できる国連の、そしてそんな国連だからこその避けられない欠陥について。かくして子供のお使い以下のことしかできない不幸な人たちが生まれてしまう。


いやぁこくれんってほんとどうしようもないなあ。