抑制された地獄

当事者達にとってはまるで違いはありませんけども。


時事ドットコム:反体制派壊滅へ総動員態勢=シリア大統領、和平案を拒否−「政治解決は不可能」
アサド大統領、約半年ぶりに公の場で演説 対決姿勢強調に失望広がる+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
ということで事実上のシリアさんちの泥沼化宣言であります。演説自体はまぁ現状維持という中身の無いオチ。
それこそ数年前位までは――自己の権力維持の為とはいえ――欧米側と交渉し宥和路線を進めようとしたアサドさん。実際、アメリカの対テロ戦争の頃には最も協力的だった国の一つだったわけで。その現状がこういうことになっているのは、なかなか皮肉なお話ではありますよね。たった数年でこの有様だなんて。


前例から学習すればするほど「流される血の量」が増えていった『アラブの春』 - maukitiの日記
しかしそれでも、現在の彼がこうした演説に至っている理由はまぁ解らなくはないんです。だってここで降りたら彼の一族郎党皆殺しなんだから。仮に上手く国外へ逃げられたとしても、生存できる可能性は高くはない。まさにそうした事実を『アラブの春』で倒された独裁者たちが見事に証明してくれているわけです。当然の報いだろうと言えばそうなのかもしれませんが、しかしその悉くが悲惨な末路を辿っている。そりゃああした演説もやっちゃいますよね。まぁ本家たるヨーロッパの革命も王族皆殺しエンドは珍しくなかったので、いつでも何処でもこんなものなのかもしれませんが。
つまるところ、彼は正しく自身の生存戦略の為に戦う以外に生き残る道がない。
ともあれ、現状としてはアサドさんたち政府軍の側はかなり不利にはなっていけるけれども、しかし「まだ」負けてはいない。負けない限りは少なくとも生きてはいられる。
そんな生存戦略のネックは外部からの介入ですが、その辺も彼がフセインさんの教訓を正しく学んでいれば――つまりバカみたいにマッチョぶって(彼の場合はありもしなかった)化学兵器なんかを振りかざしたりしなければ、おそらく国際社会たる欧米の直接介入も防げるでしょう。
それこそブッシュさんによって決定的にマイナスイメージが根付くようになった『単独行動主義』をやってまでシリアに介入しようという国は皆無だろうし。



ただこうした現状は、悲しいことに、とても悲しいことに、やっぱり最悪の事態というわけではないんですよね。
だって私たちはその移ろいやすい恐怖心や脆弱な正義感さえ克服できれば、結局は遠く離れた国のお話でしかないんだから。幸か不幸か、政府軍対反政府軍という『内戦』でしかない。少なくとも今はまだ。
遠く離れたシリアの国内で、ただただ死体の山が積みあがっていくだけ。
欧米各国にしても、私たち日本にも、何か直接的な影響があるわけではない。積極的に「助けなければいけない理由」を探そうとするのではなくて、むしろ消極的に「見捨ててもいい理由」を見つけようとする私たち。
――その結果として関係ないから傍観する。
だってその光景は確かに地獄ではあるものの、それでも『抑制された地獄』でもあるわけだから。


がんばれシリア。