犯罪組織がもっとも楽に稼げるお仕事

投資効率ナンバーワンのボロい商売。


偽の抗結核薬、発展途上国に拡散 研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで昔からその問題を指摘され続けている『偽造薬』ビジネスであります。効果のない偽薬より更にタチの悪いマイナスでさえある、つまり毒でさえある。
まぁ私たち日本のような医療制度の整った先進国では、かなりグレーな未承認でも需要のあるお薬たち――例えば某バイアグラとか――でしか縁のないお話ではありますが、しかし世界全体では、特に発展途上国ではかなりシャレにならない問題となっているのでした。『ナイロビの蜂』よりも更に救えない現実世界。


何でそんな偽造薬が出回るのかと言えば、それはもう需要があり、そして「儲かるから」という身も蓋もない現実があるわけです。
いわゆる真っ当なビジネスをやらない手段を選ばない人間にとって、それこそ「ただ気持ちよくなるだけのおクスリ」を売り買いするよりもずっと金になる。そりゃまぁその市場の大きさを考えれば当たり前の話ですよね。私たちが文明的な生活を送ろうと思うのならば、多かれ少なかれ誰だってそうした医薬品ナシでは成立しないんだから。ルールさえ無視できれば製造費用は極小だし、なにより需要は人間が存在する限り無限にあると言ってもいい。
かくして、規制や監視のゆるい発展途上国ではその偽造薬の流通量がバカげた割合――先進国では1%前後しかないそれが後進国のひどい所だと70~80%にも達する――を占めることになる。


このお話がどうにもこうにも救えないのは、結局のところ、本物の薬が「高すぎる」という一点に尽きるわけです。その本物が高価だからこそ、偽ブランドが出回る余地が生まれる。衣料品やソフトウェアなどでは多分に見慣れた風景ではありますけども、しかしそれが人間の生命や健康に直結する分野だと――もちろんやっていることは同じではあるんですが――まぁ殊更に救えないお話へ。

【2月5日 AFP】アフリカ、インド、その他発展途上国に偽物や粗悪な抗結核薬があふれかえっており、薬剤耐性結核菌の拡大を招いているとの報告が、5日の専門誌「International Journal of Tuberculosis and Lung Disease」に掲載された。

偽の抗結核薬、発展途上国に拡散 研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

それこそ効果そのものが無いならまだマシで、結果としてよりロクでもない事態を招いてしまっている。これならまだ何の効果も無い偽薬――プラシーボに期待していた方がマシでしょう。
最早初めから中身などどうでもよくて、それっぽい外見さえあれば原価の何十倍何百倍もする高価なお薬として売ることができる。それでいて、出荷時の監査さえ潜り抜けられればその偽造が(短期的に)露見するリスクもかなり小さい。考えれば考えるほどよくできたボロい商売だと感心してしまいますよね。


こうした「(特許権によって)高すぎる医薬品」という典型的な南北問題を打破する為のものだったはずの後発医薬品――ジェネリック医薬品の存在さえも、偽薬品が出回りまくっている現状に一役買ってしまっている。
もちろん、例えばインドがやっているように、「敢えて」まだ切れていない特許を無視し安価に医薬品を流通させることで救える命もあるのでしょう。ところが、結果としてそうした行為が偽薬品の入り込む死角を大量に生み出すことになってしまってもいる。正規品を追い出したより安価なジェネリックは、より安価な偽造薬品の存在まで生み出した。まぁ当然の帰結と言えばその通りなんですよね。
更に救えないのは、そうした偽薬品の跳梁跋扈は(ジェネリックという仕組み自体歓迎しない)元々の開発・先発企業にとって、彼ら『先発医薬品』の価値を相対的に高める結果となっている以上、その偽薬品の流通を本気でどうにかしようというインセンティブが全然働かない点にあります。偽薬品と競合するのはより安価な(そしてしばしば特許を無視した)ジェネリック医薬品の方であり、むしろ怪しげなジェネリックと偽物が出回れば出回るほど、本来の開発者である彼らの存在価値は高まることになる。
つまり、偽薬品の流通阻止はコストも膨大に掛かるしはじめから無視した方が利益があるのだ、と。
まぁそれで途上国の人間が死んでも、彼らの利益が減るわけじゃありませんしね。むしろ一緒くたにして天敵である(真っ当な)ジェネリックを批判できる口実ができて万々歳です。


ガチガチで規制で固めることも、かといって全て市場に任せることもできない。「悪貨」な偽造薬は、「良貨」を駆逐する。先進国に住んでいれば当然克服して然るべきレベルの病気や感染症に、未だに苦しむ人びと。
いやぁまったく救いの見出せないお話であります。