パクスアメリカーナ「以後」における世界での立ち位置について

その試金石のひとつ。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37851
まぁ昔から言われてきたお話ではありますよね。TPPという貿易協定がもたらす経済面だけではない「副次的な目的」について。それは政経両面から要請される『対中国』という要素もあるのだと。

 TPPには2つの動機が働いている。1つ目は、2001年に中国がWTOに加盟する前まで時計の針を巻き戻すことだ。政治家、労働組合、企業の多くは今、中国が加盟を許された日を悔やんでいる。中国は国際市場へのアクセスを手に入れることで、莫大な利益を得た。だが、こうした向きに言わせると、加盟するために支払った代償は小さかったという。

 中国はWTOに加盟しても、為替を「操作」することをやめず、入札手続きを不正操作することもやめなかった。低利融資を国営の大企業に回すこともやめなかったし、組織的に知的財産の規則を破ることもやめなかった。

 中国はたかり屋であり、イカサマ師だという見方は、英国や米国、日本を含めた今日の先進国も皆、離陸段階ではかなり重商主義的な政策を追求したという事実を無視しているが、彼らの見るところ、そういう話になっている。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37851

もちろん日本でも反対派の皆さまが仰るようにTPPが嫌ならば無視してしまえばいい話ではあるんですが、しかしその背景としてあるのが「(特に中国の台頭を筆頭とする)既存の自由貿易体制が機能不全になりつつある現状」というのもあるわけで。ここに反対せずにTPPだけ拒否ってみても、やっぱりその後の立ち位置がハッキリ見えないとどうしようもないのだろうなぁと。
つまるところ、戦後世界における自由貿易体制の基礎を形成したGATTと後継たるWTOが適切に機能していた時代は良かったんですよ。まぁそれは多分にアメリカの圧倒的なパワーによる「押し付けられた自由」という見方はやっぱり正しい指摘でもあります。しかし、超大国たるアメリカの相対的な衰退――欧州連合の誕生や中国をはじめとする新興国の台頭――は結果として、アメリカが主導してきた自由貿易体制の機能不全を招いているわけで。
最早アメリカの言うことを誰も聞かなくなりつつある。それは良い面もあるし、当然悪い面もあるのです。
参加国の増大による利害関係の複雑化(FTAの乱立)と、そしてアメリカの指導力――強引な決定力の低下は、現代世界においてWTOを確実に蝕み続けている。それこそ「最も上手く機能していた国際機関の一つ」としてかつて称えられていたはずのWTOの現状。それは単にアメリカだけが我侭を通していた時代というわけではなくて、上記引用先にあるように私たち日本を含む先進国とされる国々が「自らの事は棚に上げた自分勝手なルール」を決めることができていた古き良き時代でもあったのです。
しかしそんな時代は最早終わりつつある。
管理されていた偽りの自由から、管理者の居ない本当の意味での自由、つまり混沌状態へ。
それが象徴しているのが、現状の機能不全に陥りつつあるWTOの現状でもあるのです。上記のように、中国を筆頭に最早誰も旧来のルールなど気にしなくなりつつある。確かにそれも自由の一形態ではあります。



その意味でTPPって、交渉力の弱さが嘆かれる日本ではあまり言われませんけど、アメリカの「強さ」から出ているのではなくて、むしろ「弱さ」から出ているんですよね。

 TPPの2つ目の動機は、1つ目の動機の正反対に見える。非常に強力で魅力的な貿易圏を築き、中国が、参加するためには誤った態度を正すしかないと感じるようにすることだ。この目標を推進するために、TPPの規則は一部の分野で中国にペナルティーを科す。その一例が原産地規則だ。

 TPPの規則の下では、例えばベトナムで生産され、米国に出荷される衣料品の関税はゼロになる。これは既に大規模なベトナムの衣料産業にとって極めて大きな追い風となる可能性がある。

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彼らは世界規模の影響力を失いつつあるからこそ、こうして一部地域というレベルにまで下りてきている。だからこそTPP内での影響力争いとして、そんな圧倒的なアメリカのカウンターパートへの期待が日本にされていたりもする。
それが殊更に批判されるようなことなのかというと、ヨーロッパだって似たようなことをやっているのでやっぱり限りなく正解に近い話なのかもしれません。だって少なくともそこでならば、あるいはそうやって纏まることで、かつてあったような影響力を保持することができるから。
欧米を筆頭とする先進国たちは現在そうやって、各国個別FTAの乱立やWTOの機能不全によって「真の自由=混沌状態」となりつつある国際貿易体制から一歩距離を置くことで、自らの安寧を確保しようとしているのです。


こうした背景を知ってか知らずか、「TPPを蹴って各国個別のFTAで対応すればいい!」なんて簡単に言ってしまう人を見るとまぁ気が抜けるというかなんというか。別にそれはそれで一つの意見ではありますが、しかし個人的にはTPPを選ぶよりどう考えてもその『真の自由』という名の混沌状態の方が、むしろ「かなり」交渉力を必要とされそうだよなぁと。
まぁ確かにその意味でTPPというのは、やっぱり伝統的な押し付けられた「管理された自由」に近い体制ではあるのです。


私たち日本はこうした自由貿易体制をめぐる世界において、一体どうやって生きていくのか。自らの力だけを頼りに国際社会で生きていくのか、それとも多少なりとも味方を増やすことで選択肢を狭めながらも一定の発言力を確保するのか。
結局それはつまるところ、アメリカとの距離感、というお話でもあります。冷戦下であったり、唯一超大国であったりすれば話は簡単だったんですよ。アメリカが強すぎて選択の余地など無かったから。しかし今はそうではなく、徐々に選択の余地が生まれてきてしまっている。必ず相対的に衰退しつつあるアメリカにどの程度の距離感で、いつまで付き合っていくのか?


もちろんTPPにおける中短期での技術的なお話も大事だとは思いますが、しかしTPPを考える上で同じく避けては通れないこうした長期的な日本のポジションというのもやはり議論すべきではないのかなぁと思うところではあります。
みなさんはいかがお考えでしょうか?