印パ関係も新たなステージへ

また世界終末時計が進んじゃうね。


CNN.co.jp : カシミールでインド兵5人死亡、パキスタンは関与否定
カシミール 襲撃受けインド兵5人死亡 NHKニュース
ということで中印国境だけでなく、インドとパキスタンが争うカシミールまで穏やかでないことになっているそうで。死者まで出てしまうとシャレにならないことになりそうだなぁと。冷戦終結以来、地球上において『核戦争』が最も近くにあると言われてきた両国の緊張状態。
中国や、海軍は東に、陸軍は西に - maukitiの日記
おそらく今回の件も、先日の日記でも書いた、活性化し始めている中印国境のお話とかなり密接に繋がっているのでしょう。北の中国と、西のパキスタン、見事に半包囲されるインドさんち。
結局のところ、やっぱりその最大の要因はやっぱり現地においてアメリカという『重石』が消失しつつあるということなのでしょう。アメリカが居なくなったおかげで、見事に現地のパワーバランスは崩壊しつつある。まぁそれも良くあるパターンだと言ってしまうと身も蓋もありませんけど。
かくして中国と連携を始めるパキスタンさんち。
――その結果、これまで遠慮するはずだったインド相手に、両国は積極的に「現状を打破」しようとしつつある。

(CNN) インド政府は、カシミール地方の実効支配線に近いインド側で6日に同国の兵士5人が殺害されたと発表した。
アントニー防相は議会で「武装したテロリストとパキスタン陸軍の制服を着た人員」約20人に襲撃されたと証言した。
インド側のカシミール地方の当局者は同日、短文投稿サイトのツイッターで「こうした事態はパキスタンとの関係正常化あるいは改善を目指す取り組みの助けにならない」と発言した。
これに対してパキスタン側は関与を否定し、軍は「そのような事件は起きていない」と一蹴。外務省も「事実無根であり、軍もそのような事態に至る交戦は起きていないことを確認した」と発表した。

CNN.co.jp : カシミールでインド兵5人死亡、パキスタンは関与否定

しかしパキスタン軍とイスラム武装勢力と連携して、というのがいかにもパキスタンさんちらしいお話ではありますよね。パキスタンという国家における、イスラム武装勢力との切っても切れない関係。
だからこそ対テロ戦争以降始まった、アメリカとパキスタンの同盟関係は、ああして同床異夢の果てに失敗したわけで。


つまり、元々パキスタンさんち――特に軍や情報部にとって、連邦部族直轄地域などのイスラム武装勢力と完全に切っても切れない関係にあるのは、こうした面で協力関係にあるからなわけであります。彼らはインド攻撃への非公式の戦力として用いている。
ちなみに、パキスタンにおけるイスラム武装勢力と単純にいっても、その内実は多種多様なわけであります。その勢力は幾つも存在していて、それぞれが別個の目的のために動いている。ある勢力は反米で反政府であるし、しかし反米で親政府でもある勢力も存在していたり、反米だけを掲げている勢力や、パキスタンにより厳格なイスラム国家建設を目指す反体制派も居たりする。全てを敵に回しているわけではない一方で、全てが味方なわけでもない。
――しかしそんな複雑だった状況を一気に纏めて解りやすくしてしまったのが、あのアメリカによる無人機爆殺祭りだったわけです。国民感情だけでなくイスラム武装勢力の感情としても、パキスタンで節操のない攻撃をするアメリカへの反感と、そんなアメリカと同盟関係にあったパキスタン政府への反感という二つの要素が、反米=反政府という形で皮肉にも一致団結してしまうことになってしまった。パキスタンは最早アメリカと手を切る以外に選択肢がなくなってしまったのです。


かくして運命のごとく悪化していった米パ関係でありましたが、元々どう繕おうが最終的に上手くいかなかったのは解りきったことではあったんですよね。
つまり、アメリカとしてはパキスタンを全面的に支援できるように彼らがイスラム武装勢力と手を切って欲しかったものの、しかしパキスタン情報部などにとっては伝統的に今回のようにその一部は対インドの非公式の戦力として欠かせないものでもあったし、完全に手を切るとTTPのように反政府側へと転んでしまう恐れもあって難しかった。
一方でパキスタンとしては、無人機を飛ばせば飛ばすほど反政府勢力は団結し大きくなるのにアメリカはやめてくれない、そもそもアメリカがパキスタン側からの要求に耳を貸さないのはインド側と通じているからではないか、という疑念が日々高まっていったわけであります。
ブッシュさんとムシャラフさんの時代にはそれでもまだどうにかなっていた。ところが時代を経て二人が退場していくと、後はもう坂道を転げ落ちていくが如く悪化していき、ビンラディンさん暗殺の強行で米パの同盟関係はは完全に終焉するのであります。


まぁこうしてひたすら踏んだり蹴ったりだった米パの同盟関係ではありましたが、しかしそれでもアメリカがパキスタンと手を結ぶことで「印パ関係を落ち着かせる」という点ではそれなりに効果があったんですよね。例のムンバイ同時多発テロなどがあっても、しかしアメリカがひたすら間に入ることで、インドの我慢の限界をどうにか先延ばしにすることができた。
ということで1998年の核武装宣言以来「世界で最も核戦争に近い場所」と言われた印パ関係は、少なくとも対テロ戦争の間は、その副次的効果ともいうべき効用によってそれなりに安定期を過ごしていたのでした。


まあそれもこれも、見事にこうして終わったしまったわけですけど。
そして現在において変わったのは、アメリカの不在というだけでなく中国の台頭と言う意味でも大きくパワーバランスは変化している。20世紀までであれば、インドに遠慮してそこまで前に出てこなかった中国は、最早完全に世界第二位の経済軍事大国として自身の欲望に忠実に振る舞おうとしている。そしてパキスタンは抑制的だったアメリカではなく、中国をより親密な同盟国とみなすことで、インドへの対抗心を再びむき出しにしようとしている。
ただ、おそらく、ここでも単純な国境紛争がそのまま大きな衝突に結びつくことはないでしょう。
しかし、もし再び、あの死者170人超を出したムンバイ同時多発テロのような大事件が起きたとき、果たしてインドはまだ我慢しきれるのだろうか? と考えると、まぁおっそろしいお話になってしまいますよね。


そして歴史――特にあの第一次大戦直前の国際関係を思い出すと、その時、もしアメリカという国が誠実な調停者としてその紛争へ介入するという役割を放棄したとき、まぁ見事に歴史をなぞってしまいそうだよなぁと。
がんばれ人類。