イラク戦争の教訓である『きちんとした証拠』と『みんなの同意』を正しく待った結果

『(化学兵器使用禁止という)体裁の力』絶賛後退中。そして再び「too little too late」だと嘆かれる。


英議会、対シリア軍事行動の動議を否決 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア軍事介入に疑念示す欧州各国、米に同調せず 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで昨日の日記でも少し触れましたが、シリア介入論の推進者であったイギリスさんちは見事に脱落してしまったのでした。でも逆のポジションから見ると「民主主義の勝利だ!」という言い方も出来なくはないんですよね。そりゃイギリスで投票に掛けたらそうなってしまうだろうと。なにせ、あの人気の絶頂にあった前ブレア政権を政治的に殺し、ついでにイギリスの国家的イメージを決定的に損ねたのが、あのイラク戦争の賛成だったわけだから。もうあの轍を踏みたくない。
オバマ米大統領、シリア軍事行動で議会に承認を求める 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
さて、アメリカでは一体どうなるでしょうね? まぁこんな風に事前に「議会承認を求める」というやり方を通すあたりオバマさんの個人的な感情――実はあまり積極的でないという態度が透けて見えたりもするんですが。見事な責任転嫁というかエクスキューズの用意というか。やる気があればそんなもの求める前にやっているだろうし。




ともあれ、まぁ僕の個人的なポジションとしてはリベラル(ついでにホーク)なので、『あるべき世界=化学兵器は使用禁止されるべき』という体裁を守る為に軍事介入することそのものには賛成する所ではあるんです。法というのは破られた際の抑止力があってはじめて存在意義が生まれる。ここで動かなかったら危険な前例として残ってしまうだろうなぁと。
――ただそれでも昔から言われているように「なにが正しいかを知っていることと、正しいことを行えるかどうかは同じではない」わけで。
化学兵器は撃たれ続ける、されど止まらず - maukitiの日記
つまり上記日記を書いた最大の理由でもあるんですが、反対派の皆さんが仰る中でも最も強力な反論の一つである「もう今更何をやっても手遅れだろう」というのには頷くしかないんですよね。ここまで事態が進展してしまった後に手を出してもロクなことにはならないというのは確かにその通りなのです。もしここで限定的軍事介入に失敗すれば、その後はより大規模な侵攻という選択肢しか残らなくなる。その可能性はぶっちゃけ低いとは全然言えない。ここで介入を始めても、かなりの確率で「too little too late」ということになってしまいかねない。故に反対である、というのはおそらく最も反論が難しい反対意見なのではないかと思います。
だから身も蓋もなくそもそも論を言ってしまえば、もっと早くに動いておくべきだったんですよ。そうすればおそらくもっと刺激の少ないやり方を選べたはずなのに。シリアで化学兵器が使われたとされる攻撃は、もうこれまで何度もあったはずなのに。しかしそれらを全て放置し後回しにしてきた私たち。
でもまぁこちらも仕方ないよね、だって私たちがあのイラク戦争で得た教訓と言うのは「きちんとした証拠が無いのに動くべきではない」「国際社会の同意を得るべきである」というお話なのだから。
かくして今回のシリアでは『きちんとした証拠』と『みんなの同意』が揃うまで待っていたら、事実上何もかも手遅れになっていたよ、という大変救えないオチだった。イラク戦争とは真逆の構図。早すぎても遅すぎてもダメだった。いやぁなんでも物事には良い面悪い面ありますよね。





結局の所、現状の国際社会におけるシリアにおける失態を端的に言ってしまえば「何故こんなコトになるまで放置したんだ」という点に尽きます。
以前の日記でも書いたお話ではありますが、国家安全保障戦略における致命的失敗の一つである、選択肢が無くなるまで問題を放置し追い詰められてしまった、という構図そのまんまだよなぁと。今日やらなかったので明日にはもっと大きな努力が必要になってしまった。こんな9月1日になってから動き始めるものだから、余計に苦労している構図。まるで夏休みの宿題に追われる子供のようです。
ということで今回のシリアの軍事介入について、やっぱりただ賛成するのもただ反対するのも、難しいよなぁと。反対とか賛成とか簡単に言えない。