政治手法としてのスケープゴートによる効用と限界

正しく「ヒトラーの尻尾」な人。


CNN.co.jp : ジンバブエ、ムガベ大統領が就任式
そういえばもう先月のネタではありますが、6選の独裁者ムガベの、就任時の言葉がすさましい&それでも識字率は9割 - QUIET & COLORFUL PLACE- AT I, D.さんの記事で思い出したので適当なお話。ムガベさんがまたもや再任したそうで。89歳とか。おじいちゃんいつまでやる気だ。
そんなムガベさんではありますが、毎日新聞に次のような取材があったそうで。

「独裁ぶりをヒトラーに例えられると『人々の正義のためのヒトラーヒトラー10人分だ』と切り返す」

6選の独裁者ムガベの、就任時の言葉がすさましい&それでも識字率は9割 - QUIET & COLORFUL PLACE- AT I, D.

まぁ実際、彼の政治手法ってかなりヒトラーのそれと近いところにあるんですよね。支持獲得のための方策としてのスケープゴートを用いるやり方、つまり、特定集団を大衆の『敵』として設定することで、圧倒的な支持を得ることに成功している。元々その社会に存在していた憎悪や不信感を煽り、代弁しているというポジションを自負することで同時に大衆の支持をも獲得する。ユダヤ人、白人、同性愛者、そして旧宗主国(イギリス)こそが「諸悪の根源だ!」と叫ぶ。そのやり方はまぁ悲しいお話ではありますが、人間社会にとって、それなりに有効な手段であるのです。


しかし一方で、そのやり方はデメリットだって当然あるわけで。つまり、人々に説得力のある形での恨みや妬みや嫉みの対象というのは、一般的に社会におけるある種の成功者たちでもあります。それらを感情的に一気に排除してしまうことは当然社会における悪い意味での大激変をも引き起こす。そのことでヒトラーは貴重な世界最高レベルの頭脳を流出させてしまったし、ムガベさんは国内経済における中心であった白人層を迫害することでジンバブエの経済を決定的に破綻させてしまったのです。
ここで重要なのは、そのスケープゴートを用いるやり方で政治権力の階段を駆け上がった彼らは、後からそれを取り消そうにも、もっと悪いのは自身の政治的正当性を維持する為に更に憎しみを更に煽り続けていかなくてはならなくなってしまう点にあるわけです。だってまさにその点こそが権力者としての存在意義になってしまっているから。故にその不可逆性の弾圧は、加速し続ける以外になくなってしまうし、あるいは新たな『敵』を創り続けなければならなくなってしまう。
まぁ彼らのその(実際に何処までその憎しみは本物だったのかという)内心はともかくとして、しかし彼らはそのやり方で大衆を味方に付けた以上、止まるわけにはいかないのです。故に反対勢力の台頭など、政治的危機が起きる度に、より過激な手法に頼らねばいけなくなってしまう。


短期的には上手いやり方であるかもしれないけれど、しかし長期的には必ずそのデメリットは噴出するし、限界が存在している。だって一見『敵』は無限に設定できそうだけれども、やっぱり大衆もそこまで馬鹿ではないので「(陰謀論であったとしても)説得力がある相手」で無ければ通用しない。この辺は別の機会に書きたいお話ではありますが、やっぱり私たちの憎悪って理由=特に経済的要因が無ければそこまで大きく盛り上がらないんですよね。だからこそ、その数少ない相手への弾圧はエスカレートし続けていき、それが行き着いてしまうと逆に『敵』を見失って困ったことになってしまう。
かくしてそんなスケープゴートを利用する人ほど、権力を握った後はより自身に都合のいい(半)独裁体制にしていく以外に権力を維持する方法がなくなってしまう。


いやぁスケープゴートって不毛なお話ではありますよね。