パリで死ぬ命は、シリアで死ぬ命よりも1000倍くらいは重い

パリでの129人の命は、化学兵器使用の罪よりも、シリアでの20万人以上の命よりも、何百万人の難民の悲劇よりも、重かった。



英議会 シリアでの空爆を承認 NHKニュース
英空軍 シリア空爆を開始 - BBCニュース
ということでイギリスさんちがシリア決議をしたそうで。夜に可決、翌日朝には空爆、とかその素早さにはどんだけ準備万端だったんだ感はありますよね。現代民主主義のお手本のような素晴らしいスピード感ある政治。いやまぁぶっちゃけ戦争なんですけど。
でも「賛成397:反対223」ってかなり圧倒的だよねぇと。鳴り物入りで登場だったコービンさんも、いきなり指導力を発揮できなかった感じ。
英議会、対シリア軍事行動の動議を否決 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
イラク戦争の教訓である『きちんとした証拠』と『みんなの同意』を正しく待った結果 - maukitiの日記
ちなみに二年前の化学兵器使用に対してのシリア軍事行動の採決では「賛成272:反対285」でキャメロンさんの軍事行動動議は負けてるんですよね。パリでの事故は、シリアでは動かなかった120人近くの議員の心を動かした。


そんな風に二年間で見事に大転換したイギリス政策についての構図としてはまぁ解りやすいお話ではあるでしょう。つまりイギリスの彼らは「正しく」自衛のためだけに戦争をしようとしているだけ。遠くのシリアの命よりも、近くのパリの方が重い。
シリアでは化学兵器が使用されようが、二十万人以上が死のうが、数百万人単位の難民が出ようが無視できるものの、しかし同盟国――というか「近隣都市」という方が近い*1――でのテロ攻撃には彼らは即座に「報復」「制裁」のポジションを採ることに決めた。
正しく「(自国とその周辺の)平和を愛する」ことの、これ以上ないほど明確な証明。



看過されるシリアの犠牲の大きさは、同時に私たち自身の平和と安寧の重みである - maukitiの日記
上記二年前のイギリスの軍事行動否決についての日記で、皮肉として平和主義な私たちのお話を書きましたけど、あれとは逆方向の形でそんな平和主義っぷりが証明されたなぁとしみじみと愉快な気持ちにはなりますよね。

その進歩的な平和意識によって、より海の向こうの悲劇を積極的に無視するだけの理由を見つける人びと。どうせ自分たちの税金を使って派兵したって戦後には泥沼に陥り、挙げ句現地住民からは憎まれるだけではないか、という認識は全てではないにしろ概ね正解でもあるでしょう。どうせロクなことにならないのならば、そもそもはじめから何もしない方がマシだ、なんて。

毎日数百人単位で死者が積み上げられ、総勢では既に10万人以上が死亡し、国際的に「虐殺」認定もなされ、現在進行形で200万人以上が難民として国外に逃れ、化学兵器が幾度にも渡り使用されるシリアは、しかし国際社会から見事に見捨てられている。国際法的に『正しい戦争』と認められている国連安全保障理事会の決議はないし、自衛戦争でもないから仕方ない、と言い続けながら。

――皮肉なのはそれが別に悪意や無関心なんかではなく、むしろ私たちの平和的思考によって。

まさにシリアの犠牲の大きさは、私たちがほんとうに平和主義を大事にしていることの証明でもある。現在のシリアでどれだけ犠牲があっても、しかし私たち自身の平和のためには許容できる範囲にあるのだ、と言っているのに等しいのだと思います。

看過されるシリアの犠牲の大きさは、同時に私たち自身の平和と安寧の重みである - maukitiの日記

あの時彼らは「それでも動かなかった」一方で、しかし彼らはパリ攻撃を受けて「即座に」反撃を決めた。
もちろん長期的影響が犠牲の数字として蓄積していたという点も無視はできないでしょう。しかし、それでも、おそらく、パリ攻撃が無ければイギリスがこうしてあっさりと決断することはなかったのは間違いない。
パリとシリアとイラクとベイルートの死者を悼む | 酒井啓子 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
パリ攻撃直後にも、ベイルートイラクの事件と比較してその「扱いの差」に疑念を呈する声は少なくありませんでしたけど、しかしそんな報道の扱いの差よりも、今回のイギリス議会での可決の方がずっと解りやすく示唆的だよなぁと思います。
――二年前はああしてギリギリながら否決したのに、今回は圧倒的多数で可決した。
なぜならシリアでの20万人以上の命よりも、パリの129人の命の方が重かったから。


でもまぁ仕方ないよね。私たちはただ平和を愛するのではなく、私たち自身の平和こそ愛するのだから。その意味で、イギリスは正しくフランスの連帯を示した、ということはできる。
シリアに関してはまったく他人事だったけれども、パリはそうではない、なんて。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:それこそロンドン―パリ間って飛行機で1時間半、列車で二時間ちょっとしかないわけで。東京大阪間とほとんど変わらないかむしろより近い。