結局同じ場所に辿りつく二人の新旧米国大統領

戦争をしようとして「アメリカの時代」を終わらせかけたブッシュさんと、戦争を避けようとして同じく「アメリカの時代」を終わらせつつあるオバマさん。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38758
まぁこれまで当日記で書いてきた僕のポジションと概ね近いとことにあります。二人の大統領が等しく陥ることになった、超大国アメリカの(自滅に等しい)衰退。
特に今回のロシア主導による化学兵器廃棄の協定は、湾岸戦争後に行われた国連によるイラク武装解除の失敗そのまんまなコースを辿ることになるんじゃないかと個人的には思うんですよね。そんな国連決議の履行の失敗と、経済制裁下のイラクでの一部国家(フランスやロシア)の共謀による骨抜き化こそが、結果的に2003年のアメリカの単独行動主義を招来する大きな要因となったわけで。今回のシリアも将来的にはそんな結果になるんじゃないかと。
以下その辺りを前提にした、適当なお話。

 今では、自由世界の指導者が言う「レッドライン」とは、それを越えた場合には、強制力を発動することの是非を議会に問うぞという脅しに過ぎないことが、すべての独裁者に知れわたってしまった。

 独裁者はこれまで以上に思うままに国民を苛み、虐殺するようになるはずだ。北朝鮮などの核拡散国家は、より大胆に大量破壊兵器の開発を進める。中国とロシアは、西側が残した空白地帯で自らの力を試すことに一層満足を覚えるだろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38758

わーなんて身も蓋もない。でも、概ね世界に誇るオバマドクトリンの顛末としては正しい描写ではないかと。
つまり、現状のシリア問題で最も大きな失態を犯したのは、オバマ大統領だった、というのはまあ多くの人が同意するところではないでしょうか。
もちろん結果論ではありますが、もっと犠牲が少ない時点でアサドさんを国外追放辺りで決着させておけばシリア内戦はこんなことにはなっていなかったのに。ところがオバマさんは動こうとせずに現状維持を望んだ結果、シリア内戦で10万人以上が死亡し、化学兵器のレッドラインは破られ、反政府軍は過激派が伸張し、そして何よりアメリカという国家の威信と影響力は――ブッシュさんのそれは違う意味で――決定的に後退した。


戦争を選んだ結果失敗したブッシュさんと、戦争を選ぶのを拒否した結果失敗しつつあるオバマさん。


全く両極端の選択肢を選ぼうとした両者が、しかし結果として似たようなところに帰結するのは、まぁなんだか苦笑いするしかない皮肉な構図だよなぁと。
ただこれは言ってみればどちらも伝統的な外交政策のジレンマ「現状維持か・行動するか」というお話であり、更に言えば『予防戦争』の予測失敗というお話ではないかと思うんですよね。両大統領は単純にどちらも等しく未来予測に失敗しただけ。結果論として、結局大量破壊兵器がなかったブッシュさんを一方的に非難するのが*1フェアではないように、同じく結局シリア内戦がここまで悪化の一途を辿ってしまったという点を読みを誤ったオバマさん、の判断の誤りを殊更に非難しても仕方のないことではあります。
いつまでたってもミュンヘンの悪夢が忘れられない - maukitiの日記
以前にも少し書いたお話ではありますが、特に予防戦争については国家指導者にとって最も重大な究極のジレンマとも言うべきモノであります。それが成功していればヒトラーに対して徹底抗戦を訴え続けたチャーチルさんのように賞賛されるし、しかし逆に読み間違っていれば妥協したチェンバレンさんのように扱き下ろされる。ところがどっこい、そんなヒトラーの本質を見抜いていたチャーチルでさえ、彼自身が賞賛していたスターリンによるその後のソ連の地獄を予測できなかったりもする。
かくして私たちの歴史を見れば予防的行動(戦争)に直面した際の「行動しても」「現状維持でも」失敗した例は、どちらも幾らでもあるのです。上記ヒトラーのラインラント侵攻を筆頭に、日本の満州事変辺りの流れもそうだったし、ロシアの脅威におびえ続けた結果第一次大戦に至ったドイツ、スエズ戦争に際してのイギリス、ベトナム戦争に際してのアメリカ、ポルポトをものの見事に見逃した1970年の私たち。
でもこうして上記の例のように現代の私たちが後になってから歴史として当時の判断についての是非を言うことはできても、しかし現実の進行形としてのプレイヤーとして比較することはまったく同じではありませんよね。現実に私たちを取り巻く世界では、常に決定的な情報は霧の向こうにあって、故に誰であろうと多かれ少なかれ不完全なカードで勝負するしかない。未来が確実に予測できるなんていう人間は、ただのバカか、あるいは詐欺師でしかないのです。
だからこそ曖昧な予測に基づいて決定的な戦略の岐路に立たされる責任ある人物というのは、それはまぁ難しい問題抱えることになるのです。ましてや大国の指導者であれば天秤に載るのは、途方もなく大きな物であります。それはほとんど人間の持ちうる能力の限界を超えているとさえ言っていい。


今回のシリア危機に際して、戦争を徹底的に避けようとするオバマさんの態度は、もちろん一面では正しいと言えます。しかし、それでも、彼が選択した「現状維持」は、シリア国民に更なる悲劇をもたらし、そしてアメリカの国際的な影響力を致命的に低下させた。まさにイラク国民を地獄に叩き込み、結果としてアメリカの威信を低下させたイラク戦争を進めたブッシュさんと同様に。
もちろん「何もしなかった」オバマさんの選択肢では、アメリカ軍兵士は死んでいないしアメリカ国民の税金も使われていないので、オバマさんの方がマシだとも言えるでしょう。しかし長期的に見れば、このオバマさん時代によってより進むことになったアメリカの国際主義の後退はより大きな悲劇を招く可能性は、上記リンク先のエコノミストさんが懸念するように決して低くないわけで。もしかしたら今後ブッシュさんのイラク戦争と同じかそれ以上に悪影響をもたらすかもしれない。


この意味で、イラク戦争の悪影響と、シリア内戦の悪影響、どちらも現代国際社会における超大国たるアメリカの選択肢は、おそらく今後の国際関係に否が応にも影響を与えていくことになるのでしょう。
おそらく、私たち日本ですら例外ではなく。




長くなったので余談を次回。

*1:それこそ、当時のイラクについて、フセインさん自身が言及していたように多かれ少なかれ大量破壊兵器は持っているに違いない、というのが多数意見だったわけで。まさか全く無かったなんてほとんど誰も思っていなかった。