『情報』という世界を革命する力の帰結

それは安定をもたらすと同時に、しばしば、不安定をも招来する。


エジプト新憲法案、9割超が賛成 国民投票の初期結果で 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでエジプトさんちの国民投票は見事に予定通り新憲法の承認という結果が出たそうで。あれほど独裁者の排除だの民主化だの叫んでおいて、結局は軍事政権に対して有権者自身の手によってその正統性=クーデターを後追いで承認するという、なんだか愉快な所に着地してしまったのでした。
まぁもちろんそれは現実的には妥当な選択であったということはできるでしょう。エジプトの人びとの革命疲れ。もう混乱はいいからとにもかくにも社会と経済の安定を望む人びと。それ自体はどうしようもなく真っ当で、そして切実で素朴な願いであります。
――じゃああの革命騒ぎは一体何だったんだ、と言われるとまぁ悲しくなってしまうところではあるんですけど。
もちろんそれまでも当然あった「エジプト社会の不満」という情報が、広く共有された結果起きた争乱。ソーシャル革命。でもまぁやっぱり古今東西の『革命』の常であるように、必ずしもそれが善き結果を招くことにはならなかったよね、というごくごくありふれた出来事でしかなかったとも思うんですよね。
以下、その辺りの個人的で適当なお話。




2014年の悩みのタネ - maukitiの日記
先日のユーラシアグループの2014年の10大リスクのネタを見ていて思い出したのが、やっぱり「情報の拡散」というのはそれはもう社会の変革を促す重要な要素であるのだろうなぁと言う点であります。例えばロバート・カプラン先生なんかは『Warrior Politics』の中で、歴史上そんな「情報拡散」による最も大きな前例の一つが、今日のキリスト教世界の方向を決定づけた『宗教革命』であると述べていらっしゃいます。

情報の拡散が必ずしも安定に寄与するとは限らない。15世紀半ばにグーテンベルグが活字を発明した結果、宗教改革が起こり、そのあとに宗教戦争が続いた。教義に関する論争に拍車がかかり、それまで眠っていた不満が目を覚ましたからである。

グーテンベルグ活版印刷の登場と、インターネットの登場。情報革命。当時から言われていたように、上記エジプトをはじめとする『アラブの春』なんかまさにその典型でありますよね。元々薄く広がっていたバラバラの不満が、情報として民衆に広く共有されることで大きな流行を生み出した。皮肉な話ではありますが、そこから更にまるで上記の展開をなぞるようにして、イスラム世界でも宗派戦争が起きているのは不謹慎ではありますが、興味深い関連性であるよなぁと思ってしまいます。
こうしたイスラム世界での『情報拡散』による混乱と対立は、ただインターネットの普及というだけでなく、やっぱりアルジャジーラアルアラビヤなどの大手メディアの役割も大きかったりするのでしょう。まさに彼ら自身のスポンサーやバックボーンの意向に従って、イスラム世界での情報拡散を熱心に行っているわけで。それこそ欧米メディアと同様に、国境を越えてのニュース発信が、結果として宗教的メッセージや軍事的メッセージの拡散に繋がっているのは、やっぱり現状のような世界の不安定化に一役買っているのではないでしょうか。



ちなみにこうした『情報拡散』による混乱という構図は、やっぱり私たち先進諸国においても他人事ではなくて、例のウィキリークスなどの政府情報の暴露も同じように――こちらも同じくその是非は別として――社会の争乱を生むタネとなっているわけで。
またよりミクロな日常生活でも私たちは情報の拡散・不満の発信に勤しんでもいる。私たち日本でもあの一時的な熱狂状態だった反原発運動のそれも、基本的には同じ構造から生まれているんじゃないかと少し思ったりします。原発賛否という議論――ついでにいえば危険性の議論自体もそれまでずっとあった――を集約し、一挙に不安定な状況を生み出した。
(真偽はともかくとして)情報の拡散によって、人びとの議論が促され、そして個々にあった小さな不満を集約し、大きな流れを生み出す。まぁ結果としては、最初に書いたエジプトのそれと同様に、何かが変わったわけでもなかったんですけど。
――その意味で、なんだかよく解らない理屈で『アジサイ革命』と『アラブの春』を同列に語っていた人たちは本質的に適切な比喩をしていたなぁと今更ながらに思うところではあるんですが。結果として、致命的な混乱の後に、疲れ果てた人びとによって結局どちらも微妙に形を変えただけで以前と同じ場所に着地しつつある、という愉快な構図。




情報の拡散が招く社会の不安定化。それ自体にはポジティブな意味もネガティブな意味も実際にはなくて、良くも悪くも「現状打破」という性質を持つというだけのでしょう。前述したように、やっぱりだからといって必ずしもそんな現状の打破が成功するわけでもないんですが。
情報拡散ってこわい。