「復讐による平和」の下に生きる私たち

「復讐はやめよう」「でもやめられない」からこそ、その復讐には意味がある。



http://military38.com/archives/38575795.html
Q:なぜ「復讐」は悪とされているの?
A:想定される解答としては概ね二点でしょう。

    • 「復讐による実質的利益の薄さ(多くの場合で自己満足にしかならない)」
    • 「社会秩序へのダメージ(報復の連鎖を許せば必ず無関係の周囲を巻き込むことになる)」
なぜ人間は復讐の本能を持つに至ったのか?

壮大な時間の無駄であり、その個人的行為は社会安定を損なう。まぁ思考実験として思いつくのはこの辺かなぁと。
だからこそ、その果てのない報復合戦を抑止するためにある程度発達した社会はほとんどどこでも、刑事司法制度を通じて(間接的な)復讐代替機能を有しているわけですよね。個人の復讐の代わりに、罪を犯した奴はタイホして刑務所にぶち込む。有名なお話であるハンムラビ法典の「目には目を。歯には歯を」というのも、あれって別に復讐を推進しているのではなくて、復讐は人間の本能として避けられない以上仕方がないけど一定以上は過激化してはいけない、という抑制の戒めでもあるんですよね。近代社会が持つ法もそれと大差なく、故にあの古代の法典が意味するところは後進性で野蛮さと言うよりは、むしろ近代にまで連なる進歩性の萌芽でもある。
「『復讐』なんていう不毛なことはやめよう」なんて。
そんな風にまぁ復讐を諌めるお言葉は過去の偉人たちからいくらでも引き出せますよね。

過去は過ぎたことであり、取り返しがつかない。そして賢明な人間には、現在にも過去にもやるべきことがたくさんある。
(中略)
復讐に憂き身をやつす者は、さもなければとっくに癒えているはずの傷口を、自分で広げているだけなのだ。

故にベーコン先生なんかそれは「野蛮な正義」であるとばっさりしている。それは人間の本能に基づく感情の問題でしかない故に、復讐にミクロな面――個人的に利得があるのかというとそうではない。せいぜい自身の鬱憤がはれるだけ。不毛ですね。おわり。
まぁこれで終わると日記としても面白くないので以下適当なお話。


しかし、それでも、こうして「悪」だと批判されること自体が証明するように私たちはその役に立たないはずの復讐という感情=本能を未だに捨て切れておらず、完全に無用となったわけではない。


実際のところ『復讐』そのものに意味がないのかというと、そんなことない。その本能はやっぱり何かの役に立つからこそ、私たち人間に備わってもいるわけで。この点が現代世界においても尚、復讐という本能が潜在的な役割を果たしていることは、まぁ面白いお話でもあると思います。
つまり、私たちが(それこそ本能のレベルで)復讐しようとすることは将来の利益に繋がる面がある。それは古今東西復讐の不毛さを語るのと同じくらい、しかしある程度社会生活を送ってきた人間であればこんなことは誰だって気づくお話ではあるのです。
――他人に(余計な)恨みを買うことは得策ではない。だってそんなことをしたら復讐されるかもしれないから。
もちろんそこに絶対的なパワーの差や、二度と会わない相手であればそんなことを気にする必要もないでしょう。でも社会的動物である私たちは、そういう相手とばかりつき合えるわけでは決してない。故にその非合理的な感情による「復讐されるかもしれない」というのは未来の脅威を相互抑止する暗黙の了解として機能している。
確かにそれを越えることは一個人にとっては、ハードルとして小さなものかもしれない。しかし、それでも、その小さなハードルが人間関係にあまねく少しずつ存在すると言うことは、マクロ的には大きな意味を持つことになる。上述したように、現代ではその実行自体は公的機関へと委譲され個人の私たちの手からほぼ離れてしまったけれど、しかしそんな将来の合理性を考慮するだけの知性を持つ私たちが多数派を占めているからこそ「復讐による平和」はこうして今も機能し続けている。



ちなみにそんな「復讐による平和」が尚も主流であり、人類史上極北にあるのがあの核戦略のMAD=相互確証破壊なんですよね。
もしこちらを攻撃すれば自分たちは犠牲を厭わずに反撃してやる、と。まぁ上記復讐システムそのまんまであり、少なくとも冷戦時代を通じこれまでの所はそのシステムは上手く機能してきた。それはかつての人間社会においてかつてどこにでもあった風景そのものであります。復讐の実行を他者に委譲せず、自らの手でそれを成し遂げようとする原始的な世界。
だからこそ、同時にそれは「やり過ぎる」危険性も常にはらんでいる。でもだからといって、他にやってくれる全世界規模の国際機関はまだ存在しない。だったら自分でやるしかないじゃないか。
永世中立国スイスが保持する軍事に関する7つの真実 - GIGAZINE
私たち日本は――日本人自身がどう考えているかは別として――それをアメリカに大部分を委託しているし、誰とも同盟しないと誓った永世中立たるスイスは独力でやると誓っている。復讐=反撃する覚悟こそが、自分たちの平和を担保するのだと。


いつか国際関係にもそうした『復讐代行機関』が生まれるかもしれない。
でも今はまだない。