満足した中国と不満足なロシアによる現状打破主義

さぁ地政学の時間だ!


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41111
ということでミード先生とアイケンベリー先生のとても面白いお話。やっぱり個人的にはハンチントンな文明衝突世界よりもフクヤマな歴史終焉世界な方に立ちたいとは思っていますけど、でもまぁ国際秩序の説明としてどちらにも説得力はあるものだと思います。

 しかしアイケンベリー氏は、何にも増して、いわゆる「現状変更勢力」は現状変更など本当は望んでいないとも考えている。

 同氏によれば、これらの国々は究極的には米国主導の世界秩序から恩恵を享受しているため、これをひっくり返すようなまねはしない。「これらの国々は、米国が現在の地政学的体系の頂点に君臨していることを苦々しく思っているが、この枠組みの基礎にある論理は受け入れている。それは至極もっともな話である。市場が開かれれば、ほかの社会と貿易したり、投資や技術を受け入れたりできるようになる」からだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41111

この辺はアイケンベリー先生のリベラルな秩序に関する主張の根幹でありますよね。所謂『西洋優位型システム』について。実際このグローバルな世界を基礎とするシステムは、ただ既得権益を持つ従来の先進諸国だけでなく、国家発展を望む新興国にとってもとても都合のいいシステムなんですよ。ぶっちゃけ自身のみの力でそれを成し遂げるよりも、それに参加することでシステムの一員となった方が=世界経済に組み込まれる方がずっと容易く経済発展を実現できる。訒小平以後の中国なんてその最右翼であるわけで。
本邦でもしばしば否定的な形で語られる、戦後以来続く「欧米主導による世界秩序」というのがここまで長く続いてきたのは、こうした理由が最も大きいとアイケンベリー先生は著書で述べているわけです。
なぜ核兵器はされなかったのに、一方の生物化学兵器は条約で禁止されたの? - maukitiの日記
以前の日記でも少し書いたように、ひたすら金の掛かる核兵器を『主役』とすることによって戦争のリスクとコストを限りなく高める一方で、世界貿易体制を構築することで新興国を台頭させ参加のメリットを限りなく高める。
つまり世界中で「打倒するより参加する方が利益がある」と思わせることによって。ただパワーによる強制力だけではなく、参加者の自発的意識こそがその秩序を支えてきた。


その意味で、現状の地政学上の問題と言うのはこれまでのところ(改革開放後の)中国や(冷戦後の)ロシアはそれに参加してきたわけだけれども、しかし彼らは「今でも」それに参加し続けたいと考えているのか? という点にあるのでしょう。単純にアメリカのパワーの相対的低下というだけでなく、自発的意識までもが低下したら?
――この点を考えると彼らが『現状打破主義』であるというミード先生の主張にそれなりに頷いてしまう所ではあるんです。
実際問題として中国はほぼ世界一の経済大国の座を手に入れかけている、そりゃ満足しても不思議ではありませんよね。ここで面白いのは、同じく現状打破勢力として見られているもう一方のプーチンさんそれとは逆に、冷戦後のロシアの経済的苦境の根幹はそれに参加したせいだと考えている点にある。おそらくその認識はそれなりに正しくて、自業自得な面はあるもののまさに無秩序な市場開放=世界経済の参加を行ったせいで、ソビエト連邦だけでなくロシア経済は見事に破綻した。故にプーチンさんは一貫して保護主義的な姿勢を崩そうとはしないし、それを危うくしかねないウクライナEU接近を(安全保障と言うだけでなく経済問題としても)断固として拒否している。クリミアで見せたようなプーチンさんの既存秩序など知ったことではない=価値はないと言う態度は、中国と同じくそれなりに理解できるんですよね。


まったく反対の理由から、最早それに興味を無くしつつある(かもしれない)彼ら。果たしてゼロサム世界は、地政学は復活するのか。
みなさんはいかがお考えでしょうか?