営利を目指す人たちにとって伝統ある普遍的戦略のひとつ

人件費を削れ。


[PDF]株式会社ゼンショーホールディングス: 第三者委員会からの調査報告書受領に関するお知らせ
ということで、現代社会を象徴する一つの側面としても、とっても面白い「すき屋」さんちの第三者委員会からの報告書であります。ザ・ブラック企業の(これが全てではないにしろ)、内実。かつての農奴たち、産業革命からの炭鉱労働や縫製工場、あるいは蟹工船なんかからまるで変化のない風景。




でもまぁ以前の日記でも書いた気はしますけど、そうするのが経営戦略上――少なくとも短期的に利益を出すという意味で――間違ったやり方なのかと言うとやっぱりそうではないですよね。むしろゼンショーは、企業と言う概念、それどころか労働という概念が生まれて以来最も古くからある成功戦略の一つを、現代でも実践しているに過ぎない、とも言うことはできるんですよ。結局のところ古今東西それは意味があるからこそ、こうしたやり方は生き残ってきたわけで。
――つまり、人間のコストを抑えることが絶対の勝利の秘訣。
それはまぁあまりにも解りやすい「勝利の方程式」であります。人間に正当な給料さえ払わなければ幾らでも成長できるし利益を出せる。これは何も使用者たちだけに限定される傲岸不遜な考え方なのかと言うとまったくそんなことはなくて、日常生活なんかの個々人のマクロのレベルですらも「自分でやればタダだろう?」なんて無邪気に考える人は一杯いますよね。そこにある論理と言うのは前者のそれと根は一緒なのです。
人間を出来るだけタダで働かせればいいじゃないか、なんて。もうそれは理屈じゃない。
もちろん新商品や新機軸によって利益を生み出すことだってできる。でも、そんなの極々一握りの成功者たちにしか許されないあまりにも稀少な選択肢であります。多くの人々にとっては、そんな贅沢許されず、故にいつだって人間のコストを如何にして抑制するかについて頭を悩ませ続けることになる。なのでこうしたやり方って概ね『弱者の戦略』でもあるわけで。弱者が多数を占めるからこそその戦略は歴史上ほとんど常にスタンダードだった。過去も現在も、そして悲しいことにあとしばらくは未来も。


結局のところ、その誘惑を避けるのは不可能であり、だからこそ大事なのは「やり過ぎない」ことでしかないと思うんですよね。多かれ少なかれ誰だってやっていることを、まぁ見事にゼンショーはやり過ぎた。何もかも自助努力や市場に任せていたらこうした抑制が働かないのは自明であります。誰かどこまで労働者を絞れるかというチキンレースという連環。実際に消費者たる私たちは、こうした事実を薄々解っていながら従業員の血と汗と涙に支えられたやっすい牛丼を食べにすき屋に通っていたわけで。
労働組合という抑止力もあるものの、しかしそれも(多くは本当に必要なはずの『非正規』を相手にしないという意味で)最早陳腐化が著しい昨今。なので現状それを託すのは『政府』しかない。
すき家の第三者委員会報告書雑感(渡辺輝人) - 個人 - Yahoo!ニュース
その意味で言えば、僕はこの方の言う通り「訴訟」することで抑止するしかないとは思います。誰もがその誘惑に乗りかねないからこそ、逆ベクトルに働く抑止力が必要でしょう。

労基法の罰則の公訴時効の多くは3年です。まだ間に合うはずなので、是正指導をした各労基署は、上級官庁とも相談の上、まとめて刑事処罰を検討すべきではないでしょうか。見せしめに反対する意見も当然あるでしょうが、悪質な違反をしている企業を放置すると、悪貨が良貨を駆逐するの例え通り、労働者を大切にする企業が潰れたり、“ブラック企業”化せざるを得なくなるのです。

すき家の第三者委員会報告書雑感(渡辺輝人) - 個人 - Yahoo!ニュース

そこで「労働者の目覚め」や「ゼンショーの善意」やらに期待するのは、抑止力としては不完全だよなぁと。歴史上常にあり、今も尚元気に生き続ける強力な『普遍的戦略』という誘惑=人件費圧縮圧力に対抗するには、それはあまりにも軽すぎ儚すぎます。


みなさんはいかがお考えでしょうか?