難民をなくそう(物理)

難民が来るのが問題なら来させなければいいじゃない。



EU、難民危機対策の軍事作戦を承認 リビアは反発 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで愉快すぎるEUさんちの軍事作戦であります。これまでも何度か書いてきたEUさんちの難民ジレンマ――救えば救うほど難民たちはより押し寄せる――の根本的治療に彼らはついに乗り出したのだった。

【5月19日 AFP】(一部更新)欧州連合EU)加盟各国は18日、リビアから地中海(Mediterranean Sea)を渡り欧州を目指す難民が後を絶たないことを受け、その責任を負う人身売買業者らの摘発を視野に、来月から開始する前例のない海軍による軍事作戦の計画を承認した。

EU、難民危機対策の軍事作戦を承認 リビアは反発 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

いや、まさかこんな展開になるとは思いませんでしたけど。検討されていたとはニュースで知っていましたけども、まさか本当にそのままやるとは。難民が来るのが問題ならば難民が居なくなればいいじゃない。いやまぁそこまではいいんですけど、まさかその解決手段が人道援助でなく「物理」っていうね。
ザ・主客転倒。
――でもまぁ彼らがこんな愉快すぎる画期的難民問題解決手法にたどり着いてしまった理由は解らなくはないんですよね。


つまり、一般に国際社会による人道援助モデルの成功例として挙げられる『オペレーション・ライフライン』が成功するうえで重要な点は二つあります。現地武装勢力との(暗黙含む)協力による停戦状態の確立と、その上で「食糧援助によらない」現地住民の自助努力による自活を取り戻すことであります。
しばしば言われるのは、食糧援助って基本的には時間稼ぎにしかならず根本的解決にはならない、という点なんですよね。当たり前の話ではありますが、喫緊に死んでいく――最低限の飢餓は回避できたとしても、物資援助だけでは長期的・根本的に彼らを救うことはできない。


翻って現在のEUのジレンマもまさにそこにあるわけで。リビアを中心にした地中海南側沿岸国から押し寄せる人たちを食止める為に、本当にやらねばならないのは、そこに「平和状態」を作り出さなくてはいけないわけですよ。そうして住民たちへ少なくとも以前の生活を取り戻させることこそが、難民救済のたった一つのさえたやり方でもある。
でも、まぁそんなの無理ですよね。
リビアで乱立する各勢力と話し合って和平交渉をすることもできず、一方で自分たちの手で『安全地帯』を作るのはおそらく欧州合同軍すべてを投入しても無理でしょう。イラクアフガニスタンの撤退前に最低限の治安を回復させていたアメリカのように10万〜20万単位の兵士が必要となる可能性が高い。でもそんな大軍が平和を愛するヨーロッパにあるはずもなく。まさに彼ら自身の口で批判していたアメリカがそうだったように、リビアをバラバラにすることはできても、平和を造ることはできなかった。
造るより壊す方が簡単だった。まぁエントロピー的には正しいですね。


かくして今、(ウクライナギリシャなどの問題も抱え)必要最低限の戦力しかない欧州連合に出来る現実的対応策とは何か?
――と考えた時に出た答えが、先手を打って難民を乗せようとする船を沈め後はリビアが文字通り焼け野原になり唯一の勝者が現れるまで待とう、という回答だったと。
きっとこの軍事作戦の見込みを聞かれた欧州合同軍の司令官は「それは是非やれと言われれば初め半年や一年の間は随分暴れてご覧に入れる。然しながら、二年三年となればまったく確信はもてぬ」とか答えたんじゃないかな。
しかしこれ常任理事国の承認が要るみたいですけど、中国ロシアは一体どう出るのでしょうねぇ。明らかな内政干渉である以上拒否する可能性がかなり高く、彼らの恐怖の本質にあるのはその論理を自国勢力圏にまで援用されることを恐れている以上ぶっちゃけ無理な気がしますけど。ただ一方で、最近のロシアさんなんかを見ると「難民救済を名目にした」軍事作戦というのは、実際彼らにとっても都合の良い前例となる可能性は少しあるんじゃないかとも思います。




ともあれ、善意に溢れるヨーロッパ諸国は、まさにこれこそが「難民の命を救うのだ」という顔をしながら、船を沈めんと決意した。
なんというか、笑えばいいのか悲しめばいいのかよく解りませんよね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?