イデオロギーの物語を憶えているものは、幸せである。心、迷わずにすむだろうから……

ダンバイン地味復活日記*1


大阪都構想:住民投票、改憲国民投票の「予行演習」 - 毎日新聞
ある程度以上の大きな自治体である程度以上大きなテーマでの『住民投票』の実施について、記事でも言われているように「将来の予行演習」という要素はそれなりにあるのだろうなぁと頷けるお話ではあります。

 「大阪都構想」の賛否を問う17日の住民投票は運動の自由度が一般の選挙より高く、憲法改正に関する国民投票と似ている。安倍晋三首相に近い自民党中堅議員は「首相は国民投票の予行演習にしたいと考えていた」と明かす。ただ、物量による宣伝合戦となったことで課題も残した。

大阪都構想:住民投票、改憲国民投票の「予行演習」 - 毎日新聞

良くも悪くも予行演習。
先日の結果を受けて既に一部指摘されているように、賛成反対のどちらにしても投票傾向の大きな要因を占めたとされるのが都構想の政策の合理的分析などではなく「橋下」「反橋下」を訴える人びとのキャラ性だった、というのには実際かなり頷けるお話ではあるんですよね。


もちろん訴える側の説明不足もありましたけども、例え直接民主制住民投票であろうと、おそらく普段の投票と同じくほとんどの人が詳細な合理的判断からというよりは「なんとなく」投票したのではないかと。
――なんとなくやってくれそうな橋下さんの言うことだからと賛成し、なんとなく嫌いな橋下さんの言うことだから反対した。
でも、これを有権者の堕落と言うのは少し違うかなぁとも思います。ていうか(もちろんそうではないと主張する人たちが居る一方で)そもそも大多数の私たちは有権者として、これまでも、そしてこれからも、自身のコストをそこまで使って熟慮の末に投票しているのではなかったわけだし。


少し前まではこうした「なんとなく投票」することはより簡単だったわけですよ。保守とリベラル、右と左、といったもう少し単純な世界観に生きていた時代。
アーロン・ウィルダフスキー先生なんかが指摘したように、まさに先進的社会で暮らし教育を受けている人たちの多くですら、ただ政治的ポジション=イデオロギーによって態度を形成させてきた。そして、そのことが証明しているのは単純な人びとの怠惰や無関心であるというよりは、むしろ「合理的選択」の難しさでもある。実際、それを生業とする専門家の間ですら議論の分かれる問題を、ただの一般人が理解し判断しろと言われても絶対に無理でしょう。
セイジッテムズカシイヨネ - maukitiの日記
その意味で、理性的に合理的分析の元に選択し投票せよ、というのがそもそも無理難題なのだと思います。
だからこそ私たちは、そうしたフレーム問題をショートカットする為に「なんとなく」判断を下す。かつてはイデオロギーこそがその役割を果たしていたし、今ではそれを――進歩というか退化というべきか――訴える政治家個人の印象によってこそ決めるようになりつつある。彼らの言う言葉の厳格な分析ではなく、どのように感じるかで。
今回の橋下さんの愉快な住民投票って、多くの面で政治的選択の『前例』となるのではないかなぁと。既に国政選挙なんかでも指摘される代表的人物の「キャラ」こそが有利不利を決める傾向は、おそらく直接な賛否投票でも示される可能性が高い。私たちのリソースに限界がある故に、賛成反対の合理的分析ではなく、より簡単なプロセスによってこれまで同様賛否を決める。
その態度形成のトリガーとなるのは、現代ではイデオロギーよりむしろ主張者の個人的心証こそが左右する。




ということで今回の大阪での都構想住民投票という『予行演習』で明らかになり私たちに教訓として残したのは、この辺りなのではないかと。

イデオロギーの物語を憶えているものは、幸せである。心、迷わずにすむだろうから……
私たちは民主主義の世界に生まれてきたにもかかわらず、政策選択の為の費用と時間を持たされぬまま投票しなければならない、性を持たされたから……
それ故に、イデオロギーによらない、次の態度形成の物語を伝えよう……

イデオロギー後の世界に生きる私たちは、概ねその主導的「人物」の好悪こそが賛否を決める。ていうか今日の日記は概ねこのバイストンウェルネタでなにか書きたかっただけ。
きっと将来、憲法改正国民投票がある時も近い展開になるんじゃないかな。なので今のうちに賛成反対に熱心な人は「大衆ウケする」広告塔を用意すればいいと思うよ。今の安倍さんだと……、何か大きな外部イベントがないと今回に近い結果になりそう。




まぁそれも仕方ないよね。だって日々の生活に追われる大多数の私たちはそんな専門的なことを勉強する時間もまた熟慮する時間も、持たされてはいないのだから。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:パチンコ化による影響と考えるとちょっと複雑な所ではあるんですけど