中国的家族主義の来し方行く末

家族経営企業の初代たちの崩壊後の世界で。


中国人はここまで「面子」を重んじる! 日本土産を買う際の最も大切な判断基準(1/5) | JBpress(日本ビジネスプレス)
爆買いを生む濃密な人間関係、「圏子」とは? 中国人が家族の次に大切にする固い結束(1/6) | JBpress(日本ビジネスプレス)
面白いお話。「面子」を重んじる中国さんちについて。

 例えば、今、自分が中国人張さん(仮名)になり、奥さんと夫婦2人で日本へ旅行することになったと仮定してみましょう。当然ながら、自分の両親、奥さんの両親、自分の友人、同僚等に自分が旅行で日本へ行くことを知らせます。

 この時点で、張さん個人は既に面子が立った(有面子)ことなります。なぜなら張さんは両親や友人、同僚等に自分が夫婦2人で日本へ行けるほどの経済力があるという点を自慢できているからです。これは張さんの奥さんも同様で、奥さんの面子も立っています。

 さらに張さん夫婦の両親はどうでしょうか、これは「自分たちの子供は日本へ旅行することができるくらい経済力がある」という自慢ができることで本人たちほどではないにしても一応の面子は立ちます。

中国人はここまで「面子」を重んじる! 日本土産を買う際の最も大切な判断基準(1/5) | JBpress(日本ビジネスプレス)

基本的には「人間関係を重視する」中国人たちとして頷けるお話ではありますが、ただまぁこれって身も蓋もなく中国社会で特に顕著とされる「家族主義」の一端ではないかとも思うんですよね。
――だってまさに上記引用先の図なんかを見ると彼らの『爆買い』が爆発的巨大化する最大の要因は、自分以外の家族の、圏子にまで買ってるせいじゃないですか。少なくともそれが自分自身のみ、であればずっと少なく済んでいますよね。個人的行為のみで見れば、旅先でお土産を職場に友人にと買い捲る私たち日本人とそこまで大差ないでしょう。
しかし彼らは家族の面子を守るためにまで爆買いする。
それはまぁ家族の利益が自分の利益と信じているからだろうし、まさにその構図が中国社会や他の国でも見られる家族主義の典型例だよねぇと。


また身も蓋もなく実利を最終目的にした人間関係も結構ユニークですよね。

 圏子という仕組みは「仲の良い友達」という以上に硬い結束をほこる人間関係です。もし圏子内のメンバーの誰かが困難に出くわしたときには、他のメンバーは打算なく、自分のツテや能力を駆使して全力で困難に直面しているメンバーをサポートします。

 圏子のメンバーはお互いを「自己人」(ツーチーレン:ziji ren)と呼び、相手を助けたことに対する報酬等は一切期待しません。そして、頼む側も相手に対する遠慮はあまりしません。これもお互いを自己人だと思っているからです。

爆買いを生む濃密な人間関係、「圏子」とは? 中国人が家族の次に大切にする固い結束(1/6) | JBpress(日本ビジネスプレス)

もちろんその相身互いは素晴らしいモノではあります。
ついでに日本の人間関係にもそうした面がないわけでは絶対にない。ただ一方で、ここまで――お土産の有無が利害関係に直結する――あからさまでもないでしょう。むしろ集団利益の為にこそ個人が奉仕する構図の方がずっと多い。
結局のところ、こうした爆買いは尚も中国が家族主義の社会に生きていることの証左なのではないかなぁと思います。家族以外に社会を信用しないからこそ、どこまでも冷徹な合理的リターンを考えての投資であり、そしてその投資は自分自身だけでなく「家族の為にも」行われている。
良いか悪いかは別として。




家族企業経営が尚も続く中国さんちらしい風景について。それはただ伝統的社会がずっと続いてきたというだけでなく、既存秩序を全て入れ替えようとした中国共産主義との戦いに勝利した証でもあります。むしろ資本主義へと盛大に舵を切った今だからこそ、その伝統は尚も続いている。
若干ズレますが、現代中国さんちで置きつつある社会変化の一つとして、爆発的経済成長の源の一つともなった、中国的家族経営の限界=成功した初代の企業創始者たちの引退時期が迫ってきているんですよね。大小の差あれど、初代(家族企業)創始者たちが引退する時こそ、事業継承というイベントによって従来あった家族主義の伝統が決定的に揺るぐタイミングでもあるのです。
そしてそれはウェーバー先生なんかが仰ったようにただ一方通行で家族主義が経済社会に影響を与えるだけではなく、逆に経済社会が家族等の社会構造の在り方にまで影響を与えることがしばしばある。
ガーシェンクロン先生*1なんかが指摘しているように、私たち日本が独自に西欧型近代化を成功させたように、その道は決して一本道ではないわけですよ。西欧的モデルが全てではないし、逆にそうでなかった日本的モデルが全てでもない。きっと中国もまたユニークな変化の途中にあるのでしょう。


果たして中国の経済社会はどのように変化していくのか。そして、この『爆買い』は共産主義に勝利した強い中国的家族主義が尚も存続していくことの証左なのか、圏子を通じての家族主義=経済社会の変化の兆しであり、更にこの先、家族主義を乗り越え中国史上初めて『国家』が国民との(ある程度まで公正な)契約を結ぶ時が来るのか。


みなさんはいかがお考えでしょうか?