安倍の冷徹

「偉大なる日本」を目指すためのさえたやり方、ではあるかもしれない。


時事ドットコム:慰安婦合意で早くもずれ=日本政府、韓国の対応静観
ということで、かなり危ぶまれていたものの、よちよち歩きながら「理解」に始めたそうで。
正直この「どちらが先に蒸し返すか」というのは何時何分何秒前地球が何回回った日レベルの水掛け論(ついでに言えばどこまでの発言を「公的な」ものとするか)に堕ちていく可能性が高く不毛な争いになりそうなので、少なくとも両政府共に「合意した」と言っている間は、粛々と進んでくれればいいなぁと温かく見守ればよろしいのではないでしょうか。






そんな喧々諤々な中身はさて置くとして、しかし「安倍さんが」というのはやっぱり面白い構図だよねぇと。ニクソンショックを典型に、こちらも右派な安倍さんだからこそ出来た合意、というのは概ねその通りなのでしょう。
個人的に連想するのは、ドゴール主義・ゴーリズムなんて有名な言葉の生みの親でもある、ガチ国家主義者だったドゴールさんかなぁと。元々大戦の英雄的だった彼ってまぁ「偉大なるフランス」を本気で夢想していたフランス軍人であり、だからこそ就任当初は泥沼のアルジェリア独立戦争にケリをつけてくれると期待されていたんですよ。
ところが彼は、国内の反発(自身もテロを受けて九死に一生を得たりした)を押し切り、あのアルジェリア独立承認に踏み切ったわけで。まさに『偉大なるフランス』を実現する為に、最も合理的な方法を選んだ。だって植民地経営はもうまったく利益をもたらさなかったから。


安倍さんの今回の件も概ね似たような所にある、かもしれない。実際にあったかどうかはまぁ個々人のポジションによって違うでしょうけど、しかし少なくとも彼らがかつてあったと信じている「失われた日本という国家の偉大さ」を願っている。
でもその偉大さって単純に伝統的な国粋主義そのものかというと、やっぱり現代では違うわけですよ。よりぶっちゃけて言えば中国やロシアあるいはトルコなんかが目指す地平――他国から尊敬され配慮され(恐れられる)『大国』という地位こそを彼らは願っている。まぁ安倍さんも濃淡の差はあれど、概ね似たような所を目指しているのだと思っています。
ところがその復活にとっては、韓国などによるディスカウントジャパンな政策は致命傷ではないものの、やっぱり目の上の瘤のようなものでもあったのは間違いないわけで。
かくして彼はその解決を試みた。まぁ確かに日本や韓国内の一部反発はともかくとして、概ね海外からの評価を見る限り、国家としての名声は高まったと言うことは出来ますよね。それだけ見れば確かに合理的な振る舞いだよなぁと。彼は本当に慰安婦の事を案じているのではなく、それを手段として扱っているだけ。
まぁその後憲法改正まで突き進み強力な大統領権限を持つ第五共和政を開闢させたドゴールさんになぞらえるなんて、色々な意味で不吉過ぎて怒られてしまいそうですけど。




ともあれ、逆説的に言えば、韓国の所謂反日外交政策によってこそ、こうした合意に日本を踏み切らせ合意に至ったという『成果』でもあるんですよね。むしろ誇ってもいいレベルです。
一方でそのタイミングが中国接近に対するアメリカの圧力なんかもあって「安く買われてしまう」タイミングだったのは悲しいお話だよなぁと思うんですけど。10億って個人的にも安い合意だなぁとは思いますけども、やっぱりその理由はこのタイミングだよなぁと。
北朝鮮が「初の水爆実験」実施を発表、水爆使用に疑問符も| Reuters
北朝鮮もまーた核実験ぶっぱしちゃったしねぇ。核戦争最前線な東アジア。
ここで下手に日本の提案を蹴ったら「更に」アメリカとの距離が離れてしまうわけで。今回の合意に関してしばしばアメリカ圧力が言われていますけども、直接の圧力というよりは、むしろ韓国側の配慮――韓国の米中バランス外交の副作用――であり、日本がその機に乗じたという方が大きいと思います。


がんばれ日韓両政府。