(ヨーロッパ)人の夢と書くもの

欧州統合意欲「と」反移民感情が結びついたら一体どうなるの?


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ということでドイツも大盛り上がりであります。まぁ反ユダヤ主義の頂点を極めた(もちろん他のヨーロッパが無縁だったというわけでは絶対にない)ドイツだけあって、異邦人への反感が爆発してしまうのは理解できなくはない構図ではありますよね。よく本邦でも過去をキレイに反省したドイツ云々が語られたりしますけども、あれだけ弾圧禁止されても尚ネオナチまでとは言わなくてもちょっとだけ穏健なペギーダなんかは元気だし、数年前にも割礼ネタで政治騒動にしたし、まぁ彼らも色々あるよね。
社会学風に言うと、ドイツの個人が悪いんじゃない、ドイツの太陽が殊更にまぶしいのが悪い――じゃなかったドイツ社会が悪いんだ、というお話。おじいちゃんはナチじゃなかった、かもしれないけどユダヤが好きというわけでもなかった。




さて置き、こうしたドイツなんかの反動ってやっぱり単純に「反移民」という要素だけで説明されるお話ではなくて、やっぱり欧州統合という理想の躓きという面も無視できないのだろうなぁと。経済という面でも、また社会統合という面でも。
今も昔も西も東も、ある『信仰』死につつあり新しい『信仰』の登場という移行期のタイミングになると、まぁどこでも社会は(大抵暴力を伴って)大きく揺れることになるわけで。問題は代替となるイデオロギー・信仰がどうなるか、というお話でもあります。
エマニュエル・トッド先生なんかが詳しいですけども、ヨーロッパにおいて元々残ってきたキリストという宗教が20世紀半ばまでに決定的に退潮した後にやってきたのが、世俗主義や政治的リベラルさを強調した西欧主義でもあった。欧州連合プロジェクトってこうした取り組みとまぁいい塩梅に合致したわけですよね。キリスト教国家主義を卒業した彼らが、新たな夢・ビッグピクチャーとして元々キリスト教的でもあって相性のいい「普遍的価値観を中軸においた文明社会の創造」という大目標を持つことで統合意欲を担保した。
ヨーロッパは先進世界の先導者と(もちろんその中心にはドイツがある)なるのだ、なんて。


元々、極右な人たちが言ってきたように「反移民」ってそのまま「反欧州統合」と相性の良かった主張でもあって、それならまぁ何時も通りの一部のバカなことを言っているとひたすら黙殺しておけばよかったんですよ。
――ところが今では現実的判断として、欧州各国の政治エスタブリッシュメントを中心に「反移民」と「親欧州連合」が両立しつつある。むしろ今でも頑なに移民受け入れをがんばるメルケルさんのほうが珍しい位であります。
しかし上記でも書いたように、元々リベラルな普遍的価値観を中心狭義とする欧州連合プロジェクトにとって、そうした(少なくない有権者たちの意向を汲んだ)「移民拒否」な現実的判断と少なからず矛盾してしまう主張でもあってしまうんですよね。
どちらが骨でどちらが肉か、と言えばやはり守るべきは骨の方ではあるんですが、それでも肉を切らせてダメージを受けないはずもなく。


外国人恐怖症がヨーロッパの夢を蝕みつつある現状。個人的にこれまでの日記でも何度か書いてきた「反移民で折れると欧州連合プロジェクトそのものがヤバそう」というのって、こういう理由があるんですよね。これまでも建前だけだっただろうと言うと身も蓋もありませんが、しかしその建前が建前として機能するだけの(特に超大国アメリカに対しての)矜持を彼らは持ち続けてきたわけで。
もちろん、それだけでいきなりに死に繋がるなるわけではないし、短期的には有権者たちの「反移民」の声を無視する方がより致命傷になる可能性の方が高い。
それでも、この後退は確実に現代ヨーロッパの『信仰』に瑕疵を作ることになるし、それがまた冷笑的な無神論者(反欧州連合論者)を増やすことになるのは間違いないだろうと思います。かつての宗教がそうであったように、支配的な信仰・イデオロギーが後退局面に入りつつある、ように見えるヨーロッパ。


こうなるとより現実的な教義と範囲に収めた欧州連合2.0となるのか、あるいはまた別の『信仰』がやってくる・復活することになるのでしょう。いやぁヨーロッパも大変ですよね。


20世紀後半からヨーロッパの夢であり続けた欧州連合プロジェクトについて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?