ある日、日本の中で、『文明の摩擦』に出会うとき

グローバルな世界に生きる私たちは、必然的に増えていく他者の価値観との相違に、一体どう振る舞うべきなのか。



「軽視するべきではありません」FGOのキャラクター設定にヒンズー教徒が批判 - Togetter
わーおもしろーい。さすが世界に冠たるFGOはコンテンツが持つ吸引力が違うよね。パクリ騒動でもそうでしたけど、良くも悪くも多くの人たちを惹きつけてしまう悲劇。
しかしこの削除要請に賛同するか反対するはともかくとして、ついでにFGO開発運営の態度もさて置くとしても、こうした声明とその反発って「他者が信じる神聖性への言及の是非」という感じでとっても現代世界の縮図って感じでとってもおもしろーい!興味深いと思うんですよね。


上記のように宗教上の神や聖典、あるいは権威や象徴などの言及はとくに顕著な事例で、フランスでのシャルリー・エブドの揶揄と銃撃はそれはもう議論となったのも記憶に新しいお話でしょう。そこでは少なくない人たちが彼らを擁護する一方で、やり過ぎだと批判された。んじゃ今すぐその「超えてはいけないライン」がどこにあるのか愚民どもに授けてみせろ等々それはもう喧々諤々であります。かくして、それは私たちが愛する『言論の自由』をめぐる一大論争(決着したとは言ってない)となっている。
とはいえ今回の日記の本題は、これはこれで面白いですけども、そこではなくて。
今回の事例が解りやすく教えてくれるのは、「私たちは同じモノを見ているようで、しかしそこに何を見出すかはまったく別である」というごく当たり前ながら、しかし忘れがちな普遍の現実でもあるのだと思うんですよね。身体化された世界観=文化(文明)によって私たちは、オルタナティブな『事実』であるかはともかくとして、しかし確実にそれぞれの文化圏によってオルタナティブな『真実』を持つことになる。


パールヴァティー』に対するイメージとして、私たち日本人の多くが持つだろうエンタメ化された姿*1と、ヒンズー教の宗教指導者が言う神聖なイメージ、一体どちらが真実なのか。ただのフィクション・代替的宇宙でしかないのか。それともそこには事実すら一つしかなく、部外者である私たちが持つパールヴァティーのイメージなど、所詮はオルタナティブなファクトでしかないのか?


仮にfgo開発運営に悪意がないとしても、それが「もう一つの事実」でしかないならば、、Rajan Zed氏がそんな無知蒙昧な偏見を正すことは正義なのか?
「代替的事実(オルタナティブ・ファクト)」と「フィクション」の違いをゲド戦記の作者が語る - GIGAZINE
ル・グイン先生的に言うならば、『神』は『事実』の範疇にはいるのか?
『神』の正統なる定義について。まぁ人類が嫌というほど血を見てきたお話ではありますよね。


ヒンズー教の神は羊肉食べません! 豪のCMにインドが抗議 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
過去の世界では、こうした摩擦を『距離』というスーパー万能な天然の障壁によって緩和できていた。しかし今は違う。すばらしきグローバル化によってヒト・モノ・情報が更なる移動が進むということは、そしてリベラルな人たちが賛美する「多様性」ある社会を目指すということは、ほとんどそのまま、こうした根本的な世界観から生まれる摩擦が増加していくことに他ならない。
「(自称)理性ある」価値相対主義的な判断に則るならば、すべては同等に価値がある故に、お互いにリスペクトを生みそこに優劣はなくなる。もちろん無垢で純真なリベラルな人たちはそれを信じているけれども、でも見方によってはそもそもそんな相対的な視点自体が、ある特定な=西欧的な文化・文明なポジションでしかないとも言えるわけで。実際に、中国やロシアや一部のイスラムの人たちがそう言っているように。


もちろん今回のようにその摩擦に際しても、譲歩が容易なエンターテインメントな娯楽ネタでしかないからと通り過ぎるのもそれはそれでいいでしょう。外国の政治的権威や、暴力度や女性の裸などで、散々通ってきた道だしね。でもそんな『相違』が法問題、そして自由や人権や平和といったよりクリティカルな概念とぶつかるようになったら。日常生活で度々起きるようになったら。
まさにそれこそが、今、同化政策を放棄しながらも移民難民を受け入れ続けた果ての欧米世界のジレンマでもある。


同じモノを見ていながら、しかし違うモノを見出してしまう故に対立が起こる『文明の摩擦』について。やはりハンチントンは正しかったのか? 
それとも私たちが信じるリベラルな価値観こそがいつかそんな対立の歴史を終わらせてくれるのか? ――まぁそれはそれで文明人が非文明人を生暖かく見守ってやる、な上から目線な態度でもあるんですけど。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ちなみに僕がまずイメージする『パールヴァティー』といえば、某漫画にインプリンティングされた「ヤクモー!」と叫ぶ彼女(cv林原めぐみ)。