結局、私たちは『国の境目が生死の境目であるべきだ』と考えていたのだろうか?

しかたないよね。貧しい国の生命より、私たち豊かな国の生命のほうが価値があるんだもんね。
やっぱり今の時代は自国ファースト!



新型ウイルスワクチンの公平配分、「壊滅的な失敗」の瀬戸際に=WHO - BBCニュース
ザ・ワクチン争奪戦な現状を悲しむテドロスさんであります。

新型コロナウイルスのワクチン接種が複数の国で進む中、世界保健機関(WHO)は18日、不平等なワクチン接種政策の影響で、世界が「壊滅的な道徳上の失敗」に直面していると警告した。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は18日、より豊かな国で暮らす健康な若者が、貧しい国で暮らす重症化リスクのある人よりも先に予防接種を受けるのは、公平ではないと述べた。

テドロス事務局長は、49の富裕国で3900万回以上のワクチンが投与されている一方で、ある貧困国ではわずか25回分の予防接種しか行われていないと指摘した。

新型ウイルスワクチンの公平配分、「壊滅的な失敗」の瀬戸際に=WHO - BBCニュース

うーん、まぁ、そうねえ。お前が言うな的批判をさておくならば、確かに正論ではあるよね。
『国の境目が生死の境目であってはならない』という国境なき医師団の言葉の意味をしみじみと考えさせられてしまうお話。
現実には誰がどう見ても『国境が生死の境目』となっている現状。
いやまぁ冷笑的なポジションからすると、コロナであろうとなかろうと今も昔もそうだっただろう、という身も蓋もないことが言えてしまうんですけど。(一回目)


しかし、コロナ危機というのは、それ以上に悲劇的であからさまに、その身も蓋もない現実を証明してしまっているとも思うんですよね。
日本のコロナ再流行を「政治のせい」にし過ぎると生まれかねない『不都合な真実』 - maukitiの日記
以前の日記でも、コロナ対応で各国政治が容易に比較できるようになったというお話を書きましたけども、

コロナ時代、世界で最も安全・危険な国・地域とは-耐性ランキング - Bloomberg
文字通り全世界が同じタイミングで同じ危機に対応しなければいけなくなったことで、私たちは解りやすく目に見える数字で、そのコロナ対応の政策について海外と比較考量できるわけでしょう。
そして更には経済指標や感染者及び死者数の推移といった形で結果まで。
(もちろん現実には気候や他の環境要因などで差異は当然あるものの)世界全体が同時に一つの政治テーマに取り組むことで、必然的にその政治の対応について各国それぞれを相対評価することが可能となっている、かなり異例な、比較政治として興味深い構図じゃないかと。

日本のコロナ再流行を「政治のせい」にし過ぎると生まれかねない『不都合な真実』 - maukitiの日記

更には、コロナであからさまな程に明らかになってしまったのは各国政治だけでなく『命の重さ』という私たちが文明人として最も重要視している価値についての、冷酷な現実でもある。
自国国民の生命は他国のそれよりも重い。
まぁやっぱり今更過ぎるリアリズムな国際関係の現実ではあるでしょう。(二回目)
私たちはこれまでだって、シリアでも、アフガニスタンでも、スーダンでも、北朝鮮でも、ウイグルでも、他国の戦争や弾圧を看過し他国国民の命を軽んじてきたのだから。
全世界が同時に直面することになったコロナでもそうしているだけ。
誰もが同じ立場になることで、その薄情さがより強調されるようになってしまっただけ。





我先にとワクチンを買い占める国家たち。
少なくとも未だ十分な供給体制が整ってない以上、現段階ではワクチン争奪戦というのは必然的にゼロサムゲームとなっていく。
豊かな国が確保したワクチンというのは、貧しい国が打てるはずだったワクチンである。
韓国、ワクチン確保巡り大統領への批判強まる | ロイター
ドイツの「ワクチンフィーバー」その確保量と購入金額はいかほどか(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
舛添氏、ワクチン確保の遅れをチクリ「国産開発の遅れは痛い」「構造的問題がある」― スポニチ Sponichi Annex 社会
新型コロナワクチン 世界各国 確保の状況は? | 新型コロナウイルス | NHKニュース
日本 ワクチン確保 - Twitter検索 / Twitter
そうした現実を知っているのか知っていないのか、私たちの日本でも「ワクチン確保に遅れているのは政府の怠慢だ!」という政権批判の声がありましたけども、つまるところ彼らが信じている世界観ってそういうことですよね。

そして、「自分優先」の態度はワクチン価格を押し上げ、買いだめを助長するため、自滅的な結果をもたらすことになるとした。

新型ウイルスワクチンの公平配分、「壊滅的な失敗」の瀬戸際に=WHO - BBCニュース

テドロスさんが言う「自分優先」な態度そのまんまな私たち。


「日本のワクチン確保は遅れている!」
「他国よりもより早くより多くワクチンを確保すべきである!」
いやあトランプ顔負けの自国ファーストな人たちだよねえ。
こちらも以前から書いてきましたけど、やっぱりトランプの「アメリカンファースト!」というトレンドは、アメリカだけでなく現代民主主義国家であればほとんどどこでも共通したモノなのだと思ってます。
自国政府へ無邪気にそれを要求する私たち有権者の声そのまんまに。
ワクチンはジャパンファーストだ!


ワクチン確保が遅れていると批判する人たちは、『国の境目が生死の境目であるべきだ』と確信しているのだろうか?
別にそういう態度を批判したいワケでは絶対にないものの――僕自身だってワクチンを打てるなら打ちたいという気持ちは絶対に否定できない――コロナ禍によって普段掲げていた『世界全体の生命の価値』というスローガンの底が透けて見えちゃったよねえ、とちょっとイジワルな気持ちにはなってしまいます。


私たちは一体次からどんな顔で『国の境目が生死の境目であってはならない』という素晴らしい言葉と向き合えばいいのでしょうね。
……今、コロナで、こんな醜態を晒しているのに?
普段はとりすまして美辞麗句を並べているものの、いざ非常事態に陥って、その人の本質や人となりが明らかになってしまうような居心地の悪さ。


まぁやっぱり今も昔も、おそらくこれからも、残酷な世界の現実なんてそんなモノだというとやっぱり身も蓋もないんですけど。(三回目)
でもそのことを認めてしまったら、普遍的価値観を信じるリベラルで文明人を自称する私たちにとって、致命的な敗北宣言になってしまうんじゃないかなあ。
『他国国民の生命は自国のそれよりも軽い』
同じ国の国民ならば、その貧富の差による生命の価値を建前としては等しくすることができるものの、しかし国が違えばそんな同胞意識は途端に失われてしまう。
やっぱり人間の命の価値には、国の境目によって差があってしまうんだなあ。


ワクチン争奪戦へと突っ走る国家たち。それは何も政治家たちのエゴではなく、それを要求する私たち有権者たちが支えている。
きっと未来の教科書にも、当時の人々は誰もが自分さえ良ければそれでいいと考え行動した、と書かれることになるのでしょう。現在の私たちが大戦前夜の世界を見るように。
寒い時代になってしまったなぁとしみじみ思ってしまいます。
――より正確に言うならば「コロナによって寒い時代であるということが、これ以上ないほどあからさまに暴露されてしまったとは思わんか?」なんて。


みなさんはいかがお考えでしょうか?