ホビーをお金(の多寡)で買いますか?

マスク転売騒動から一年経って日本も日常に戻りつつあると言えるのかもしれないね。


重要なお知らせ | 株式会社ホビージャパン
ホビージャパン、“転売容認”不適切発言の社員を退職処分 管理監督者も降格へ(オリコン) - Yahoo!ニュース
転売擁護発言がまぁものすごく良く燃えていたそうで。

 会社・編集部全体としての見解としては「これは、ホビージャパン編集部及び株式会社ホビージャパンの見解とは全く異なるものであり、当社はホビーに携わるものとして、ホビー商品のいかなる転売行為や買い占め行為も容認しておりません」と説明し、「該当社員の見解に関しましては、当社としての考え方とは全く相容れるものではなく、ホビーに携わる人間としてあってはならないものであると考えております」とし、「該当社員に対しましては、社内規定に従って厳正に処分いたします」と伝えていた。

ホビージャパン、“転売容認”不適切発言の社員を退職処分 管理監督者も降格へ(オリコン) - Yahoo!ニュース

転売の是非はともかくとして、ホビージャパンの中の人がそれを言ったらおしまいだよね。
その意味で言えば、これは単純に『転売』擁護な内心の是非ではなく、職務上の(もっと言えば取引相手との関係性から生まれる)倫理規定やコンプライアンスの問題っぽいよねえ。


この構図について、解りやすく経済学から見る「転売擁護」な発言をしていた方の発言が流れてきたので引用しますけども、


すっかり「転売ヤー死すべし」が主流な現代日本社会のトレンドにあって、最近表舞台ではすっかり見なくなっていたホンモノの市場原理主義者っぽくて個人的に感心してしまいました。
まぁ確かに「最初のプライシングが失敗していて過度に安いから転売される」という経済学からの意見には一理あるんですよ。
――でも社会はそんな経済学や市場主義の論理だけで回っているわけでは絶対にない。
それこそ今なお続くコロナ禍において初期にあった「マスク転売」ってものすごい大きな騒動になったのを忘れたわけじゃないだろうにねえ。それでもこう堂々と言ってしまうのは、ガチな気質を感じてしまいます。
炎上商法なのかもしれませんけど。確かに炎上商法も経済的には理に適っているのかもしれないしね。



この辺の転売のお話って上記コロナ初期のマスク転売騒動でも書いたように、割と以前から日記にしてきた当日記の定番ネタの一つでもあります。
転売への怒りが意味するのもの - maukitiの日記
(我々にとって)マスクとはいったい……うごごご! - maukitiの日記
概ね個人的ポジションについては今でも変わっていないので引用すると、

ともあれ、まぁ確かに経済学としてみれば、こうした『転売』や『ダフ行為』は非難どころか賞賛されるお話ではあるんですよ。不当に安かった商品を適切な値段で提供することで最も(金銭的)価値を見出す人たちへと循環させ、社会的効用を増大させているから。
資本主義そして経済効率こそを信奉する私たちの社会に適ったやりかた。


ただ――まさにサンデル先生が「それをお金で買いますか?」と問い掛けているように――じゃあ世の中のモノ全てを『お金』基準で転売することが正しいのか? と聞かれると、やっぱり大多数の人はそこまできっぱり割り切れませんよね。行列に並ぶ倫理と市場倫理を同価値に、常に、見れるわけではない。
あるモノは転売することは許されても、しかし別のモノは許されない。
結局、この転売の是非問題の根幹はここにあるわけで。

転売への怒りが意味するのもの - maukitiの日記

もちろん私たちは普段からマスクをお金で買っているとマジレスすることも可能ですが、かといって金銭で購入する商品やサービスすべてがそのまま転売やオークションでお金持ちから優先で手に入れることができる商品、だと定義することにまぁ否定的になるのも大多数の主流意見でもあるのも間違いない。
食料品などの生活必需品*1や医薬品、あるいは公営サービスなどはそもそも社会に広く行き渡すそれ故に価格が抑えられているわけで。
それをそのまま「需要と供給」の市場論理によって価格を著しく上下させるのは適切ではない、という意見はまぁ真っ当なポジションだというしかない。
むしろ何でもかんでも金を多く払ったやつを優先させろ、という市場原理主義な方が少数派ですよね。

(我々にとって)マスクとはいったい……うごごご! - maukitiの日記

以前書いた日記ネタを転載するだけで済むなんて、なんて省エネな日記なんでしょう。
(同じ作者の本を買っていると「この人ま~た同じ話してるよ……」と損した気持ちになってしまう僕ではありますが、今ならその作者の気持ちが少しわかります)


話を最初に戻して、では「ガンプラ」などのホビー商品はどうなのか? ――と聞かれると……確かにちょっと困ってしまうかなあ。
マスクのように転売が許されるラインを越えているとは安易に言えないかもしれない。
それが文字通り『子供の玩具』なホビーであれば割とアウトな判定をしても許されるかもしれませんけど、この雑誌のメインターゲットであろうのはどう考えても大きなお友達で『大人の玩具()』でもあるわけだし。
【特別企画】なぜホビーメディアは「転売」を容認してはいけないのか 転売行為はユーザーとメーカーの幸せな関係を破壊してしまう - HOBBY Watch
その構図から考えると、最初のホビージャパンの中の人があっさり処分されてしまったのは、やっぱり単純に「転売の是非」を越えた、取引先やユーザーとの信義や倫理の問題なのでしょうねえ。
坂井豊貴さんはTwitterを使っています 「あの程度の転売擁護でこの処分とは、転売うんぬんを超えて、労働問題ではないのか。 https://t.co/1YsTxyfbLv」 / Twitter
そうした処分だと類推される事例に対して「金額の多寡こそ全て」な価値観からこう言っているのは――批判しているわけでは絶対になくて――やっぱりこの方はガチなお人なんだなあと、再度感心してしまうお話ではあります。


短中期的には別に転売があったっていいんですよ。
でも長期的にユーザーとの信頼関係を構築し「自分が儲かることを第一にせずに」長く商売をしようと考えているならば、必ずしも自己利益を最大化するようなプライシングをすることに、最大のメリットがあるわけじゃないでしょう。
まぁそんな温いことをしているから転売につけこまれるのだ、と言われるとぐうの音も出ないんですけど。
――そして、おそらくこの人が言っていることもそういうことなんでしょうけど。
――――もっと言うと、たとえ経済学の論理から擁護できようとも転売ヤーにつけこまれている状況を良しとしない人たちが現代日本社会では大多数でもあるんでしょうけど。
それでもこういう擁護を大きな声で言うのはやっぱり少数派ながら「ガチ」な人だよねえ。神の存在と奇跡を確信し布教しようとするガチの人を見る目に近いそれ。



ホビー商品の転売の是非について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?