「神と和解せよ」と叫ぶ人たち

生きる為に働くのか、働く為に生きるのか、という古典的神学論争な趣。



これ「働かせたい言葉」? 阪急炎上「はたらく言葉たち」批判殺到の理由を考える - ねとらぼ
阪急電鉄中吊り炎上騒動は「私鉄ナンバーワン給与」の産物か|NEWSポストセブン
炎上した阪急電鉄の広告 ネットユーザーが地獄のミサワと合わせ話題に - ライブドアニュース
そういえば阪急電鉄が不用意な広告で大炎上していたそうで。

 その1つとして列車内に掲げられたのが「毎月50万円もらって生きがいのない生活、30万円だけど仕事が楽しい生活、どっちがいいか(研究機関 研究者/80代」という言葉。これがTwitterユーザーによって投稿されると、「やりがい搾取」「若い世代の給与を知らないのか」など批判が集まる事態に。Twitterのトレンドに入るなど、結果的に大いなるレピュテーション(悪評)リスクを取りに行ってしまった形の阪急電鉄は企画を取り止めることになりました(関連記事)。

これ「働かせたい言葉」? 阪急炎上「はたらく言葉たち」批判殺到の理由を考える - ねとらぼ

うーん、まぁ、そうねえ。現実が見えていない故に炎上した、というのはまぁその通りかなあ。


ここで面白いのは、二重の意味で「現実が見えていない」という点だと思うんですよね。『金額』という意味ではもちろんとして、もう一つの『働く意味』というのがより深い断絶を示している。
――上記の炎上した投稿を借りれば、働くことが生きがいの有無に直結している、ことが議論の余地のない自明の真実として率直に述べられている。


もちろんそうした人たちが多く居ること自体は理解できますけども、特に令和たる現代社会ではそうは思わない人だっていっぱいいるはずなのにね。まるで彼らの信じる『神』こそ唯一神のように語られ、他の価値観へはまったく配慮が感じられない多様性を重視するはずのポリティカルコレクトとは真逆なお言葉。


善く働くことこそ、素晴らしい人生を送ることの必須条件であると確信している人たち。
神は労働に宿る - maukitiの日記
私たちの愛した『労働教』 - maukitiの日記
いやあ熱心な『労働教』信者だよね。そこまで熱心な信者ではない私たちにはまったく余計なお世話ですけど。





しかし現実の状況といえば、彼らは気前よくカネを払うのをやめてしまったくせに、ありがた迷惑な説法はやめようとしない。
せめてカネを与えておけば、不信心な私たちのようなナマケモノでも、表面上は彼らの神と和解させおくことができたかもしれないのにね。

 共通しているのは「経営者」、使用者側の言葉だということです。問題の「50万円~」もそうですが、「はたらく言葉たち」というよりは経営者にとって都合のいい言葉、つまり「働かせたい言葉たち」、あるいは「働かせたいものたちの言葉」として響いてしまっているのではないかと思います。

 もちろん経営者も「働く人」なのですが、働けば働くほど、リスクを取れば取るほど大きなリターンを得られる可能性がある経営者の視線を、裁量も報酬も限られたサラリーマンに当てはめたところでちぐはぐになるのは当然で(いわゆる「社員も経営者目線で」なんて経営者と同じ報酬を約束しない限り無理ですよね)、これを「熱い言葉たち」などと気軽にくくってしまった無理がたたったということではないかと思われます。仮に同じ言葉でも「誰が言ったか」で捉え方は変わりますよね。

これ「働かせたい言葉」? 阪急炎上「はたらく言葉たち」批判殺到の理由を考える - ねとらぼ

それこそ「ほんとうに」誰でも手軽に手取り30万円というレベルで配っていたなら、この広告だってそこまで炎上しなかったはずなんですよ。かつてバブルまであった世界がそうであったように。
私たちプロレタリアートの不満なんてものは、そのほとんどはカネで黙らせることができるはずで。労働は人生という教義を信じている人たちへの不満はそうしておけば、起きなかったはずなのに。


ところが悲しいことに今では気前よくサラリーが支払われていない、というだけ。


物理的リソースの喪失故に、それを埋め合わせるために精神論に走る人たち。戦中日本そのまんまだというと身も蓋もありませんけど。
そりゃ炎上するよねえ。その言葉の中身ではなく、その行為の不作為故に。


当日記は、払うものを払ってくれるのならば、敬虔な労働教信者であることにもちろん何の不満もありません。